プレミアリーグの時間BACK NUMBER
F・トーレス移籍の裏側に隠された、
チェルシーとリバプールの思惑。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2011/02/18 10:30
チェルシー移籍後最初の試合である古巣リバプール戦に臨むF・トーレス(左から2番目)。自身のキャリアは出身クラブのアトレティコ・マドリーで終えたいと考えているという
トーレスを手放してもキャロルがいれば問題ない!?
移籍市場閉幕の3日前、トーレスはクラブに移籍志願書を提出した。
するとその直後に、「トーレスは5000万ポンドと引換えに移籍を認めるという口約束を、前オーナーと取り付けていた」という情報がリークされたのだ。これはトーレスの残留を諦めたリバプール経営陣からの、チェルシーに対する要求額提示だったのだろう。実際にその金額で移籍はまとまった。
リバプールが、チェルシーにトーレスとの交渉を許す直前に獲得したアンディ・キャロルは、ケニー・ダルグリッシュ代行監督が役員として補強プランに関わっていた昨夏からの補強対象であり、パニックによる“衝動買い”ではない。たしかに、3500万ポンドという金額は、実質的にはプレミア1年目の22歳に対する移籍金としては破格だ。
しかし、キャロルの高さと強さが武器になることは、前半戦でのマンチェスター・C、アーセナル、チェルシーといった上位勢からのゴールで証明されている。
一足先に獲得が決まったルイス・スアレスは、スピードとテクニックを持つパートナーであり、新2トップのポテンシャルは高い。
太腿を痛めているキャロルの戦線復帰は3月の見込みだが、トーレス放出を致命的だとする意見は既に聞かれなくなっている。
まだチェルシーでは十分に機能しきれていないトーレス。
トーレス自身は、昨夏の時点でチェルシー移籍に心が揺れていたことを加入後に認めた。
タイトル獲得の夢を実現したい一心で、'07年に故郷のアトレティコを離れた26歳が、シャビ・アロンソ(現R・マドリー)、ハビエル・マスチェラーノ(現バルセロナ)と、過去2年連続で主力を失ったリバプールに幻滅したとしても無理はない。
特に、CL優勝に懸けるトーレスの意気込みは、チェルシーのロシア人オーナーにも負けていない。「CLでプレーできなければ選手としての存在意義がない」とまで言っているほどなのだ。
奇しくも、チェルシーでのデビューは、移籍から6日後のリバプール戦(0-1)で訪れた。
ユニフォームの色を「赤」から「青」に変えた“ナンバー9”が、ピッチ上での1時間強で放ったシュートは2本。1本目は大きく枠を外れ、2本目は相手DFにブロックされた。トーレス自身が「運命」と語っていた古巣相手のデビュー戦だが、現実は甘くはなかった。
リバプールの3-5-1-1システムが功を奏したこともあるが、チェルシーの4-4-2が機能したとは言い難い。