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「98-92は疑問だが…」那須川天心の判定勝利は“妥当”なのか?「理解できない」モロニー陣営の不満爆発も「天心びいきとは思わない」現地記者の本音
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布施鋼治Koji Fuse
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/02/26 17:38

2月24日、那須川天心は元WBO世界バンタム級王者のジェーソン・モロニーに判定3-0で勝利。ボクシング戦績を6戦6勝(2KO)とした
ところが5ラウンドになると、天心は再び軌道修正に成功する。モロニーが出てくるタイミングで左ボディアッパーをクリーンヒット。さらに左ボディで削りにかかる。
インターバルに見た那須川天心の“異変”
まさに一進一退のシーソーゲーム。中盤以降、出色だったのは天心の打たせずに打つスタイルだった。ヒラリ、そしてまたヒラリ。まるでマタドールになったかのように、モロニーの突進を避けながらカウンターを狙っていく。
7ラウンドは左ストレートの連打からのボディ攻め、8ラウンドは左のカウンター、そして9ラウンドには右アッパーからの左ストレートで攻勢に出た。接近戦で打ち合いたいモロニーがプレスを強めれば強めるほど、天心のフットワークは際立っていった。
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「最初は真面目に考えすぎていたけど、(途中から)自分の遊び心が出てきたので、ポイントは取れているなと」
多彩なパンチのなかには天心らしく、個性的なものも含まれていた。例えばアンダースローのピッチャーが大きく振りかぶるようなモーションから繰り出すアッパー。軌道からして対戦相手には見えづらく、しかもスピーディーに打つわけではないためタイミングも読みづらいように映った。
合気道の崩しのように、相手の動きをうまく利用する形でモロニーを倒す場面もあった。もちろん足を引っかけたわけでも腰を入れて投げたわけでもないので反則ではなく、単なるスリップダウンにすぎない。しかしながら,モロニーの機先を制するという意味では有効だった。
公開練習でも、天心は短い棒やヒモを使ったユニークな準備運動をやってからミット打ちに入っていた。
兄の薦めで練習を一緒にやるようになった実弟でキックボクシング王者の那須川龍心は、「身体の使い方など武術的なところを学んでいる」と明かす。
アンダースロー気味のアッパーといい、崩しといい、さらには冒頭に記したダウン寸前に追い込まれながらも耐え抜いた粘り腰といい、天心は古武術的な動きをボクシングに取り入れようとしているのか。西洋が発祥のボクシングに取り入れた「和」。モロニー戦が決まるや、「革命の狼煙をあげる」と宣言していたが、それをたしかに実践していた。
一方で、リアリズムに徹したシーンもあった。これまではラウンド間のインターバルで頑なに立ち続けていた天心が、2ラウンド以降、腫れや出血の処置のためにイスに座ることが多くなっていたのだ。少なくとも、過去の試合のような余裕はまったくなかった。