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「98-92は疑問だが…」那須川天心の判定勝利は“妥当”なのか?「理解できない」モロニー陣営の不満爆発も「天心びいきとは思わない」現地記者の本音
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布施鋼治Koji Fuse
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/02/26 17:38

2月24日、那須川天心は元WBO世界バンタム級王者のジェーソン・モロニーに判定3-0で勝利。ボクシング戦績を6戦6勝(2KO)とした
最終ラウンドになっても、モロニーはアタックを諦めずに前に出てきた。すると天心は、マタドールをほぼ封印して打ち合いに応じた。なぜそうしたのか。
「気持ちですよ。僕の言葉に『関係ないっしょ。気持ちっしょ』というのがある。言っている奴がやらなくてどうする、と。(打ち合いで)中に入っても、タイミングは対応できた。そこはふたりの闘いですけど、ふたりの闘いだけではない。お客さんも見ているし、そこに乗せられてしまいましたね」
「98-92」は疑問だが…判定勝ちは妥当だった
判定は97-93が2人、もう1人が98-92と3-0で天心。このスコアにモロニー陣営が噛みついた。
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モロニー陣営のコンサルタントを勤めているというドン・マジェスキー氏は、試合後の会見で「日本のボクシング関係者は公平に見てくださっているが、今回のモロニーは勝てていたのではないかという印象がある」とまくし立てた。
「ジャッジはもっと詳細に見ていかないといけない。(中略)我々が取ったラウンドもあり、大きい差がついたラウンドもあったと思う。しかしポイントがついていなくて理解できない部分があった」
2月18日に行なわれた公開練習でインタビュアーからの質問を「判定まで持ち込まれたら天心が有利」と曲解した陣営は「誰がそんなことを言っているんだ? 日本のジャッジは公平ではないのか」と訴えた。案の定、もつれた試合展開になったため、その疑念が一気に爆発した格好だ。
ジャッジはマストシステムということを考慮すれば、1、6、10ラウンドはモロニーが取っていたと思われる。4ラウンドも、見方によってはモロニーの優勢を支持するジャッジがいても不思議ではない。
しかし、他のラウンドは天心がとったという見方は地元贔屓でも何でもなく、しごく真っ当ではないのか。筆者も「98-92」というスコアには首を傾げざるをえないが、単純に前に出ているだけではポイントは取れない。回り込みながらでも適正打を打ち込む方が印象点はよくなる。ボクシングでは「前に出ている=攻勢」という見方は通用しない。多くのラウンドで天心についた「10-9」には、ルールに基づいたエビデンスがある。
「KOで勝てば、誰にも文句は言われない」という見方もある。確かにそうだが、そんなに甘い世界ではないだろう。その奥深さこそボクシングの魅力でもあるのだ。激闘を物語るかのように、試合後の天心の右目下には青いアザが残っていた。
