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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「あれ、おかしいな…体が動かない」箱根駅伝“山の神”に抜かれたランナーの悲劇…東洋大・期待の1年生がまさかの大失速、なぜ起きた?
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byKYODO
posted2025/01/09 17:19
第83回大会で1年生ながら「5区」を任された東洋大・釜石慶太(右)。2位で襷を受け取ったが、10位まで順位を下げてしまった
スタートしてからは自分のリズムで気持ち良く走れた。沿道から声援が束になって耳を貫いた。「これが箱根か」と気持ちが高揚した。
大平台あたりで後ろがざわざわするようになった。
「今井さんが来たか」
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釜石は、そう察した。
「順天堂大学との差はあまりよくわかっていなかったです。ただ、観衆の感じをみれば、今井さんが来て、みんなそっちに目線が向いているんだろうなって思いました」
今井が山上りとは思えないスピードで背中に迫ってきた。背後に人が来た気配を敏感に察したが、横を一瞬で走り抜けられた。
「今井さんには、1歩もつけなかったです。つかなかったんじゃなくて、つけなかった。もう次元が違いました」
その後、上ってきた北村には、「これ以上離されていけない」と思い、その背中についた。だが、200メートルほどで先を行かれてしまった。
「今井さんも北村さんも、多分、平地ならば多少はついて走れたと思うんです。一方、山はリズムを崩してしまうと、後半、苦しむことになる。でも、抜かれるとどうしても反応してしまうんですよ。今井さんはどうにもならなかったですけど、北村さんのときはついていこうとしてリズムを崩してしまったんです」
「あれ、おかしいな。体が動かない」
どの選手も、上りでは自分のリズムを重視している。選手は呼吸や足音でリズムを取るのだが、箱根駅伝では大観衆の声援の中で走るので、自分が吐く呼吸の音すら聞こえず、自分の足音も耳に届かない。
そのための、今井は、函嶺洞門の中や小涌園前から上の比較的応援の少ないエリアで自分のリズムを確認していた。そのリズムを失うとペースが上がらないまま終わったり、オーバーペースになってスローダウンしたり、ブレーキにつながったりする。
北村に抜かれたあと、必死に食らいつこうと思って走っているときだった。
「あれ、おかしいな。体が動かない」
釜石は、震える自分の体に異変を感じた。宮ノ下を通り、日陰で急勾配が続くなか、かいた汗が冷え、一気に体の熱が奪われていった。そのため、寒さで体が硬くなり、動かなくなった。
「かいた汗が濡れ、体が冷えきってしまったんです。ランシャツじゃなく、Tシャツにしておけばと思ったんですが、それはあとの祭り。寒いし、体は冷えるし、小涌園の手前あたりから意識があまりなかったです」
釜石は、低体温症を発症していた。
〈つづく→第2回へ〉