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「反スポーツ的行為」黒田監督発言に賛否のJ1天王山、本質は“タオル問題”ではなく…カメラマンが広島で見た“異変”「あの黒田監督が…」
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2024/10/02 17:49
9月28日のJ1第28節、FC町田ゼルビアの黒田剛監督はもどかしそうに両手を上げる。写真奥はサンフレッチェ広島のミヒャエル・スキッベ監督
「差を認めざるを得ない」黒田監督の表情に異変
黒田監督は試合後、広島との差をこう表現した。
「試合の流れを変えることができませんでした。(広島は)球際やセカンドボールを回収する感覚、立ち位置が洗練されていて、J1初挑戦であるわれわれは優勝を争うような領域まで到達していないことを印象づけられました。差を認めざるを得ない、というのが総評です」
技術や戦術だけでなく、精神面でも後手に回ってしまっていた。
試合中の黒田監督自身の表情にも、普段の試合とは違う部分が見えた。ディテールのズレを見つけると選手を手招きしてそれを伝え、選手がミスによる落胆を見せれば力強く鼓舞し、活を入れる。それが撮影者として見る黒田監督の試合中の表情だ。しかし、この日は時間とともに、落胆が動きや表情に思わず出てしまう、という場面が増えていった。それほど、広島に差を見せつけられた試合ということなのだろう。
コメントの中にはこんな言葉もあった。
「言葉を選ばずに言えば、このスタジアムの雰囲気に圧倒されました」
「反スポーツ的行為に値する」“タオル問題”は本質ではなく…
『お前にはこの街がついている』
試合前のウォーミングアップに出てきた広島の選手たちを迎えたのは、天王山らしく早くも最高潮のゴール裏と、そこに掲出されたこのフレーズだった。大橋祐紀(現ブラックバーン)のゴールに沸いた開幕戦から7カ月、街の中心部に位置する新スタジアムによって広島のサッカー熱は上昇し続けてきた。大橋と川村拓夢(現ザルツブルク)が海外へと旅立ったものの、夏の移籍では川辺駿が復帰し、欧州主要リーグでの実績を持つゴンサロ・パシエンシアとトルガイ・アルスランの加入も実現させた。
優勝のチャンスに懸けたチームの思いの強さはサポーターにも伝わっている。応援の手拍子はバックスタンドとメインスタンドにも波及し、選手たちは立ち上がりからフルスロットルで町田を上回った。「勝利へのこだわりの徹底」で優勝争いの主役となった町田に対して、広島はその面でも上をいったのだ。
試合後には、広島の選手が町田のロングスロー用のタオルを意図的に濡らし、黒田監督が「反スポーツ的行為に値する」と会見で苦言を呈した件が試合そのものよりもキャッチーに取り上げられた。J屈指の勝利へのこだわりの強さを誇る両チームの「ナメられたら負け」が激突した結果とも思えるが、せっかくの天王山がその話に支配されてしまうのは本文の意図するところではない。