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「ブランは人を大切にする監督だった」男子バレー“重宝された5人のプロ”が語る、敗れても愛される日本代表の全貌「仲良くするのは今じゃない」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2024/09/27 11:04
ブラン監督も信頼を寄せていた(左から)伊藤健士コーチ、行武広貴アナリスト、深津貴之コーチ
坂本と同じく「プロ意識」に大きな刺激を受けたと語るのは、JVA広報部撮影班としてカメラを回した岸翔太郎だ。本職は制作会社で働く映像ディレクター。パリ五輪予選に向けた施策とし2023年4月から日本代表に帯同した。
もともとバレーボールは門外漢で、引き受けた時は「顔と名前が一致するのは石川祐希だけ」だった。初めて選手と顔を合わせるキックオフミーティングの時も、岸はポケットに選手全員の写真に名前と簡単な情報を記したメモを忍ばせていた。
見知らぬ世界でカメラを回し続ける。チームにとってはいわば異分子で、岸にとっても心細い時間が続くかと思われたが、合流してすぐ、ある選手の言葉に救われる。
「西田(有志)が『岸さん、よろしくお願いします』と話しかけてくれて、それだけで気持ちが楽になりました」
それを境に岸は選手たちに積極的に話しかけた。最後にチームに加わったこともあり、いち早く馴染むために練習の人数が少ない時はボールを拾い、遠征時には洗濯も率先してやった。
「バレーボール以外のプライベートな話もして、日常からコミュニケーションを取り、バレーボールのことも何でも聞きました。『S1って何? パイプって何?』と、そこからです。でも選手はそのたびに教えてくれたし、この人はバレーボールを勉強しようとしているんだな、と思ってくれたのかもしれませんね」
レンズ越しに見守った真剣な姿
練習場と宿舎の往復で撮りためる映像は、決して刺激があるものばかりではない。「楽しい」よりも「つらい」と感じた日々の方が多かったと振り返るが、いつしかカメラ越しで見る真剣にバレーボールに向き合う選手たちに、自分の心が動かされていることに気づいた。目の前には、海外遠征でも羽目を外すことなく、自身の体調管理に努める選手たちがいる。岸がそれまで見てきた世界とは明らかに異なっていた。
「他の競技を担当していた時は練習に支障がなければ飲みに行く、という選手もいました。でも(バレーボールの)彼らは一切せず、常にコンディションを考える。それぐらい、何かを犠牲にしてでも本気で臨んでいるんだ、というのを近くでいつも感じていました」
慕われるリーダーと、プロフェッショナルな選手が揃うこのチームに、どんな結末が訪れるのか。
共に戦うスタッフたちも、愛すべきチームの最高のフィナーレを信じていた。
あれほど「1点」が遠いことなど、誰もが想像もしていなかった。
〈第2回に続く〉