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「胴上げで泣くのは日本人だけ」負けたのに、なぜブラン監督は3度も宙を舞ったのか? 提案者が語る“ボスへの感謝”と“奇跡の集合写真”
posted2024/09/27 11:06
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Sankei Shimbun
経験の差って、こういう時に出るのか。
あと1点で勝利をつかむ。その瞬間は、勝つことだけを確信していた。撮影班としてバレーボール男子日本代表の舞台裏を撮り続けた岸翔太郎は、後に準々決勝イタリア戦の試合映像を見返し、「まさか」の理由を自分なりに繙いた。
「あれだけ負けている、追い詰められているのにイタリアは落ち着いているんです。あの独特の雰囲気の中で、これが経験の差なのか、と思わされる強さでした」
第3セット終盤、サイドアウトで1点を返したイタリアが追い上げ24対22。まだ日本が2点をリードし、一本取れば勝利が決まる。セッター関田誠大はレフトの石川祐希にトスを上げたが、ブロックの指先を狙ったスパイクは、相手の指に触れることなくアウトになった。ベンチにいる伊藤健士コーチもそれを確認したが、「チャレンジだ」というフィリップ・ブラン監督の指示を受けて映像を確認。しかしそれは覆らず、24-23と1点差になった。
「あの時、チャレンジではなくて、タイムを取ればよかったんじゃないか。今だったらそう思います。でもあの場面ではチャレンジがタイムアウト代わりにもなったので、大丈夫だ、と。次の1点を信じるだけでした」
大きすぎた第3セットのダメージ
イタリアはセッターで主将のシモーネ・ジャネッリのサーブが続く。石川とリベロ山本智大の間に来た1本目は山本がカバーしていたが、再び同じ場所を狙った2本目は攻撃準備に意識が向いていた石川と山本の間に落ちた。「ほぼ石川の正面に近い場所で山本がカバーするには少し遠かった」と伊藤は冷静に振り返る。24対24。ここで日本は、このセットで2度目のタイムアウトを取った。
「あの時、何を言っただろう……。正直、覚えていないですね。動揺していたんだと思います。僕らだけじゃなく、選手もそう。その後、西田(有志)のスパイクが1枚で止められて、イタリアに一気にいかれた。第4セットが始まってからもダメージは残っていました」
イタリアに先行を許した第4セットは、高橋藍のサービスエースや石川のスパイク、会場を沸かせた山本の驚異的な守備で応戦し、再び24対24までもつれる展開となったが、最後はイタリアのブロックに阻まれ24対26。第5セットも先にマッチポイントを取られながらも石川の連続得点で逆転したが、最後は15対17――。
誰もが勝利を確信した第3セット終盤から急転、2時間41分の激闘の末、日本代表のメダル獲得は幻となった。