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「ブランは人を大切にする監督だった」男子バレー“重宝された5人のプロ”が語る、敗れても愛される日本代表の全貌「仲良くするのは今じゃない」
posted2024/09/27 11:04
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Kaoru Watanabe/JMPA
8月下旬、男子バレー日本代表の伊藤健士コーチは、リラックスした表情で現れた。
「反響、すごいですね。たくさんの人から『(試合を)見ました』と声をかけられるようになったし、自宅近くの(スポーツ)ジムでも、支配人から『感動しました』と梨をいただいて(笑)。より多くの方に見て、応援していただけたのはシンプルに嬉しいです」
その笑顔とは裏腹に、「パリ五輪を語る」という本題を切り出すと「実は……」と表情が引き締まった。
「昨日、やっとイタリア戦の映像を見返しました。終えた直後に最後のシーンだけは見たんですけど、結構ね、あの試合はメンタル的にしんどかったので。見ればまたあの感情を思い起こすのがわかっていたので、次に向けて動き出すまで、なかなか見られませんでした」
メダル獲得が期待された日本代表は、準々決勝でイタリアに敗れパリ五輪を終えた。
敗れてもなお、多くの人たちの心を惹きつけた理由はなんだろうか。“愛すべきチーム”の軌跡を振り返った。
ブランが信頼した“対照的な2人”
このチームを語るうえで、最も欠かせないのはやはりフィリップ・ブランの存在だろう。2017年からコーチとして、2022年からパリ五輪まで監督としてチームを率いた。
そのブラン監督と共に、チームの生命線となった戦術面を担ったのが伊藤とアナリストの行武広貴だった。
筑波大出身の伊藤は、学生時代から指導者を志し、東レアローズでアナリスト兼コーチとして活躍してきた。一方の行武は、中学時代に父の仕事で渡米するまでの1年半足らずしかバレーボールのプレー経験はない。帰国後に母校のコーチを務めたことを機に再びバレーボールとの関わりが生まれた。その後、パナソニック(現・大阪ブルテオン)でスキルを磨いた行武にとって、東レの頭脳として成果を残す伊藤は憧れの存在であったが、優勝を争うチームのスタッフ同士という間柄もあり「じっくり話をすることはほとんどなかった」という。
2人の関係がより濃いものになったのは、共に日本代表のスタッフとして関わるようになってから。行武は2007年からアナリストのサポートスタッフとして、伊藤は2014年からメインのアナリストとして参画。2017年に来日したブランも、伊藤の頭脳と語学堪能な行武を重宝した。