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「悪くないんだけどね…」J1町田ゼルビアなぜ失速? ロングスロー、水かけ論争だけじゃない今注目すべき黒田マネジメントの真価
text by
篠幸彦Yukihiko Shino
photograph byJ.LEAGUE
posted2024/09/13 17:02
J1リーグ2位で残り9節を迎えるFC町田ゼルビア。日本代表の中山雄太(中央)らを補強し、“J1初挑戦で初優勝”を狙う
町田は段階的にやること、相手が嫌がることが細部にわたって作り込まれ、誰が出てもチーム全体で設計通りに実行できるサッカーが確立されている。それを徹底させるのが黒田監督体制の“町田らしさ”であり、強さを支えてきたものだ。
しかし、その前提がここにきて揺らいできた。要因の一つにシーズンを通して強度を維持する難しさが挙げられる。
黒田監督は、敗れた横浜FM戦あたりからやるべきことが散漫になっていると警鐘を鳴らすようになった。「同じことを求めてつもりでも、50〜60%しかできていなかった」と振り返る試合もあった。
第26節の湘南ベルマーレ戦の敗戦以降、黒田監督は「首位」「優勝」という言葉を使っていない。過度な重圧が「100%」を出せない原因の一つとにらんだ。
「首位、優勝というものが耳に入ってきたり、または意識することで慢心ではないけど、目に見えない甘えや隙になったりすることもある」
実際に得た教訓もある。第29節の浦和戦は、まさにその隙をつかれた試合だった。
用意してきた一発のサインプレーを決められ、一瞬集中が切れた瞬間にクロスから豪快に決められた。決定機を山ほど作っても勝ち越せず、2-2で引き分けた。町田が圧倒した試合にもかかわらず、VARでの浦和の得点取り消しがなければ危うく負けていた。
この緩みの改善は、優勝争いを大きく左右するだろう。
パリ五輪代表の平河悠が海外移籍
もう一つ考えられるのは、前半戦のキーマンとなっていたMF平河悠の海外移籍である。
「攻守にわたってハードワークできて、ボールロストせずに90分間走り切れる選手。あんな選手は日本になかなかいない。失ってみると結構大きいなと感じる」
黒田監督は平河の穴を埋められず苦悩していることを隠さない。後釜に獲得したMF相馬勇紀が、直近5試合でコンディション不良によってベンチ外が続いている影響も間違いなくある。平河は町田の強度を担保し、チームにスイッチを入れる存在でもあった。それを失ったことは、周りが思うほど小さくなかった。