甲子園の風BACK NUMBER
早稲田と慶應で甲子園に出場!?…新たな「ブランドグローブ作り」に挑む“超名門出身”鈴木兄弟とは何者か 現状は「大手5社が7割以上のシェア」
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakeshi Shimizu
posted2024/08/20 11:00
慶應高と早稲田実業でともに甲子園に出場した裕司さんと健介さんの鈴木兄弟。大手がシェアのほとんどを握るグローブ界に新風を吹かせようとしている
「お酒はいろんな人が関わってお客様に届くんだなと。原料調達、生産、ロジスティックス、宣伝など。そして営業マンがいる。もちろん社外の様々な、お得意先のお力添えも頂く。営業経験だけでは知りえなかった関係者の顔が見えるようになりました」
それはグローブ作りも一緒だ。健介は出来上がった製品を売るという部分で裕司との関係をこういう。
「兄はメーカーでモノを売る立場。代理店の立場だとマーケティング、広告のところでどう売るか戦略を立てる。事業の川上は兄が見て、川下を自分が見るという立ち位置です。意見が分かれることもよくあるし、知見をお互いに抽出しあえる。同じ会社だったらかぶるでしょう。考え方もスキルも違う道で、よかったと思いますね」
そして起業して新たに気付いたこともあると二人はいう。
「大企業での製品開発は部署ごとに役割が分かれているので、事業の全体像が見えづらい。グローブは素材調達から販売まですべて、自分たちでやる。製作やブランディング全体を俯瞰してとらえられるので本業の仕事にも還元できると思ってます」
「野球界やお世話になった人に恩返しする」
さて、グローブはすでに何人かの人に届けることができた。手作りなので大量生産は難しいが、生産能力向上と品質担保の両軸を追い求めている。
価格は大手の最高ランクは8万円ぐらいで、こちらは2割ほど安い税抜きで6万円弱だ。子供にも求めやすいように価格は抑える。店舗はないが使う人と丁寧にコミュニケーションをとって、大手では出来ないところで生き残りたい、と裕司がいう。
「利益が出た分は社会に還元し、野球界やお世話になった人に恩返しするという思想でやって行きたい」
ところで本業との兼ね合いはどうするのか。
「それぞれの仕事も順調で楽しい。成果を出して会社に貢献することで社会的にも社内的にも人材価値の高い社員になりたい。本業以外の世界でブランドをゼロからちゃんと作った実績って、他の社員にない強みじゃないですか」
会社にも恩返しになる、と健介は言う。
「いつか、ラボを作って野球教室が出来たり、仲間同士で新規開発に挑んだりできたらいいですね」
酔ったついでの妄想ではない予感がする。
「高校野球を変えたい」と昨年は夏の甲子園で優勝した慶應高校が脚光を浴び、裕司が喜びに浸った。そして今年の夏は早実が甲子園に出場した。3回戦で激闘の末に大社に敗れたが、高校野球ファンを震わせる試合だった。健介は早実時代の仲間とテレビの前で応援したという。
「球史に残るような素晴らしい試合で感動しました」
高校野球って、いいな……そんな思いがこみ上げたことは言うまでもない。
(文中一部敬称略)