甲子園の風BACK NUMBER
早稲田と慶應で甲子園に出場!?…新たな「ブランドグローブ作り」に挑む“超名門出身”鈴木兄弟とは何者か 現状は「大手5社が7割以上のシェア」
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakeshi Shimizu
posted2024/08/20 11:00
慶應高と早稲田実業でともに甲子園に出場した裕司さんと健介さんの鈴木兄弟。大手がシェアのほとんどを握るグローブ界に新風を吹かせようとしている
大学を卒業し兄弟は野球選手を引退、ビジネスマンとして社会に出る。2023年夏、兄弟を育ててくれた両親が還暦を迎える。何か、恩返しはできないか。そこで思いついたのがグローブだった。
ただ、買ってきて贈るのでは感謝の気持ちは半減する。調べてみると手作りできる工房が小岩にあることがわかった。
「革を切る、縫う、紐通しする、全部自分たちで手作りできる。ひとつに40時間ぐらいかかるんですけど、スクールに通って作りました」
3月から通いだして7月に出来上がる。二人の名前と“ハッピー、アニバーサリー”という刺繡をいれて、両親にプレゼントした。
「涙を流して喜んでくれました」
この還暦の出来事が大きなヒント、きっかけになった。
「野球部出身者」のイメージを変えたい
野球界を変える? そんな大それたことは飲んだ席だけでしまい込んで冷静に考えた。
自分たちが就職した時はまだ、大学の体育会野球部出身者というアドバンテージの評価があった。しかし一方で、根性と忍耐力だけね、と決めつけられる体験も健介はしたという。
「古臭い、坊主頭、長時間練習とか野球のイメージがダウンしてる。でも僕なんか、そうじゃないよなと信じてるので。野球の持たれている印象を変えたい」
野球人には思考力がありスマートな人間はたくさんいる。考える力、行動する力を示したい。それをゼロからブランドを立ちあげ、グローブを作ることで世の中に少しでも伝えられるんじゃないか。
グローブ業界は70パーセントほどのシェアをスポーツメーカー大手5社が占めているという。大手広告代理店でマーケティングをしている健介がいう。
「切り込んでいくために市場がどうか、競合がどうかとか照らし合わすと、導き出される答えはまず、無理でしょうと」
しかし、金儲けではない、わくわくすることへのチャレンジだから、止まる必要はなかった。
いよいよ、グローブ作りに取り掛かった。最高級の革を扱っている工場を思わぬ関わりから見つける。ウイスキーで靴磨きをするという靴屋からの紹介だったが、裕司が大手酒類メーカーで働いている縁だ。
革については裕司が説明する。
「オランダ産の子牛のもので、希少な革をつかわせてもらってます。ヨーロッパの高級ブランドの革製品と同じ素材で、その革をグローブに使うメーカーは世界でも少ないと聞いてます。オリジナルレザーで仕立てています」
カラーはキャメル・ブラックをベースにした。手入部分やブランドロゴのカラーには臙脂色とネイビーを取り入れて早慶カラーを散りばめた。