甲子園の風BACK NUMBER
ボール直撃で“顔面骨折の球児”は今「高校野球をつまらなくしてしまった」低反発バット導入の発端に…岡山学芸館の本人語る“野球への本音”
posted2024/08/16 06:02
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph by
JIJI PRESS
初回、2死から低めに投じた変化球を弾き返される。
背番号3の先発左腕が、けたたましい金属音とともに顔面付近に飛んで来た鋭いライナーを捕球しようと試みる。しかし、間に合わず左頬に直撃し、その投手はマウンドでうずくまった。
顔面骨折で病院に…「低反発バット」のきっかけ
「とりあえず、ボールがデカく見えましたね。もう視界が全部ボールやったっす」
当事者である丹羽淳平が回想する。
2019年夏の甲子園の初戦だった。岡山学芸館の先発投手だった丹羽に、広島商の打者が放ったライナーが直撃し、その後、病院に搬送されたのだ。
ノーシードから岡山大会を勝ち抜き、やっとの思いでたどり着いた甲子園のマウンドを、わずか11球で降りなければならない悲劇。その後、味方が逆転勝ちし、自身も電気治療で左頬の腫れを治めるなど懸命な治療に努め、3回戦で再びマウンドに上がったという、執念を感じさせるストーリーでもある。
あれから5年近い時が経った今春、この一件が再び話題に上がるようになった。従来の金属バットよりも最大直径を細くし、かつ打球部の金属の厚みを増すことで、飛距離と打球速度が出づらくなった「新基準バット」が、高校野球の公式戦において完全導入されることになった時期である。
今年3月末に日本高野連の「お知らせ」に掲載された「金属製バットはなぜ変わったのか」というページには、今回の基準改定に関して、このような記述がある。
<同じ年(2019年)の夏の全国選手権大会では、投手が打球を顔面に受けて頬骨を骨折するという事故が発生しました>
言わずもがな、丹羽のライナー直撃である。同じく2019年に、投手の投球数過多を防ぐためにも、金属バットの性能向上と筋力トレーニングの普及によって生じている「打高投低」に歯止めをかける必要性が議論されていた。そのため、丹羽の一件がすべてではないものの、大きな引き金になったのは事実だ。
兵庫で対面…語った「あの日の記憶」
この春、特にセンバツの開幕前は新基準バットに関するネガティブな意見が多かった。「飛ばなくなることで、野球が面白くなくなる」という興行的な視点もあれば、「従来よりも価格が高くなり、各チームの負担になる」との現場の混乱を懸念する声もあった。
否定的な意見とともに、導入のきっかけとして自身のライナー直撃が紹介される。そんなネットニュースを見るたびに、「丹羽本人は、この状況をどう受け止めているのだろうか」という思いが強まった。