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野球クロスロードBACK NUMBER
甲子園で「投げすぎた男」は「投げないエース」佐々木朗希をどう育てた?…川越英隆コーチが語る“令和の怪物”のリアル「骨端線もまだ閉じてなくて」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2024/03/19 11:03
“令和の怪物”こと佐々木朗希。大船渡高3年時に163kmをマークした「投げない逸材」を川越コーチはどう育てたのか
当時、一軍のピッチングコーチだった吉井理人と川越は、練習や試合で腕を振り続けることで成長してきた世代である。
極端な対比をするなら、「投げすぎたピッチャー」が「投げないピッチャー」を指導する構図となり、彼らにとって挑戦でもあった。
ピッチャーという生き物は、おしなべて「投げたい」と自我を出す人種だ。1年目の佐々木とて例外ではなく、首脳陣はまず、前述したような筋力を増量させたり、インナーマッスルを鍛えたりといったトレーニングを施すなど、育成プログラムを明快にさせることで本人を納得させるところから始めた。
「朗希はすごくしっかりとした性格をしているんで、こちらがちゃんと説明すれば納得してくれました。本人にも将来を見据えさせて、モチベーションが下がらないよう練習させることに気を配っていましたかね」
意識していたのは「余計なことを言わない」こと
川越たちが特に注視していたのが、専門分野のピッチングである。ブルペンでボールを投じる佐々木の1球、1球に目を凝らし、「この体の使い方だと故障に繋がるかもしれない」と気づけば、すぐに軌道修正を促す。
指導の際に川越が意識していたことは、「余計なことを言わない」だった。
「僕らが見て『変な方向にいきそうだな』と感じた時だけ言うくらいでした。左足を高く上げるフォームとか、彼にとって出力を生みやすい長所を伸ばしつつ、できるだけ短所をなくしてあげるというか。『見る』というより『見守る』という教え方でした」
体作りの1年が終わり、実戦登板の段階へと移行した2年目の21年は、より計画的な育成を実践させていく。
ロッテは、ピッチャー登板時のひじや股関節といった各部位の可動域や負荷、疲労度、コンディショニング全般を数値化し、統計を出すアナリストがおり、細かなデータとマウンドでのパフォーマンスを照合させている。そこから川越ら首脳陣やトレーナーなどの意見をすり合わせる過程で、佐々木は一般的な「中6日」でなく最初は「中10日」と登板間隔にゆとりを持たせて先発させた。