- #1
- #2
野球クロスロードBACK NUMBER
甲子園で「投げすぎた男」は「投げないエース」佐々木朗希をどう育てた?…川越英隆コーチが語る“令和の怪物”のリアル「骨端線もまだ閉じてなくて」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2024/03/19 11:03
“令和の怪物”こと佐々木朗希。大船渡高3年時に163kmをマークした「投げない逸材」を川越コーチはどう育てたのか
「要は回復力の問題なんです。ピッチャーはある程度、試合をこなしていくと疲れが溜まるわけで、ちゃんと回復させる前に投げさせてしまうと故障の原因となりますから。それが、彼にとっては中10日だったということで。試合ごとにひじへのストレスとかデータは測っていたんで、こちらが『黄色信号だな』と判断したら練習で投げる負荷を落とさせたり、その時々で数字を見ながら調整、判断していったという流れでしたね」
佐々木は2年目まで、身体的途上にあった。
川越いわく、軟骨組織の「骨端線がまだ閉じておらず」、体に過度な負荷をかけると故障のリスクが高まることも「中10日」の理由のひとつとしてあり、2年目は一軍での登板は11試合に止めた。
その骨端線が閉じ、故障の一因が解消された3年目は初登板から「中6日」で投げるようになり、そして、怪物は化けた。
4月10日のオリックス戦でプロ野球史上16人目の完全試合を達成。次の登板となった17日の日本ハム戦でも、2試合連続での大偉業を目前とした8回に降板したことが大きな話題を呼んだ。これも2年間、佐々木と向き合ってきたチームが、「限界」だと判断しての采配だったことも明らかにされている。
マウンドでは圧巻の投球…一方で課題も
この年に9勝を挙げ防御率2.02。昨年も7勝、防御率1.78と、マウンドに上がれば圧巻のピッチングで相手を翻弄してきたが、佐々木は一度も規定投球回数をクリアしていない。つまり、まだ先発ローテーションして1年間、投げ切ったシーズンがないのである。
ただそれも、ロッテからすれば織り込み済みの一面もある。川越が実情を語る。
「160キロを投げるって、ものすごく高い出力が必要なんです。それを1年間、続けるとなると相応の体力をつけて、体のケアやコンディショニングをしっかりやらないといけません。それでも、怪我をするときはしてしまいますからね。できるだけそうならないように、トレーナーとかいろんな方にサポートしてもらいながら僕らも指導してきましたし、それは今も変わらないと思います」
大事に育てる。指導者にとってそれは、全ての選手に持つ使命と責任だ。ただ、佐々木に関して言えば、川越たちはより慎重だった。「投げない160キロピッチャー」という特異なケースだけに、指導する立場にとっても答えのないなかでの育成だった。