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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「やっぱり向こうなの?」「留学というか、旅行レベルのイメージですね」…《大谷翔平結婚》の報で思い出す、高校時代に語った“MLB挑戦”秘話
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2024/03/13 06:00
花巻東高時代の大谷翔平。当時は高校卒業後に日本の球団を経ずにMLBに挑戦するという異例の選択を表明していた
これ以上騒がれたくない、かき乱されたくない。そのために、何かにつけて懐疑的になり、防衛本能のようなものが働いてしまう。そういう時期だったはずだ。取材者として、私は悲しくもあったが仕方ないとも思っていた。
体はデカくても、そして人一倍しっかりしていても、根っこは18歳の少年、いや、青年である。ちょっと、かわいそうだった。
結婚発表で感じた大谷の根っこにある「東北人」
「発表しないと、みなさんがうるさいので――」
先日の結婚発表で、大谷翔平選手のこの言葉が胸に刺さった。
なかなか本音を言わない大谷選手が発した「心の叫び」に聞こえた。
社会通念上は失礼な発言とも受け取られかねないギリギリの表現で、彼は「大切なもの」を守ろうとしたようにも聞こえた。
「平穏な毎日を送れたら」
いつも明瞭な語り口の大谷選手が、珍しく、つぶやくように語尾を濁した。
やっぱり、東北人なんだなぁ。
同じ東北人として、勝手にそう感じてしまった。
今やすっかり「世界の大谷翔平」になってしまった今でも、きっと根っこは農耕民族の東北人なんだ。
望むのは、今日とおんなじ、平穏な明日。
気を許せる相手と話す時は、いったいどんな話し方をするんだろう。東北でも、花巻あたりは土地の言葉がはっきりしている場所だ。彼も、家でこたつにあたりながら、岩手の言葉で話す時間があるのだろうか? 土地の言葉で話す青年・大谷翔平を見てみたいなぁ。
取材の語り合いで、いつも感情を交えないように、型通りのコメントを語る大谷選手の顔を見ながら、そんなことばかり考えていたものだ。
そしてあれから、10年以上。
ようやく安心して、その姿に視線を注ぎながら思うところをありのままに話せる相手が現れたのだろう。
なんだかすごく変な話だが、結婚の知らせに接したこちらのほうがものすごくホッとしているのは、いったいどうしたことなのだろうか。
<「ドラフト狂騒曲」編につづく>