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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「やっぱり向こうなの?」「留学というか、旅行レベルのイメージですね」…《大谷翔平結婚》の報で思い出す、高校時代に語った“MLB挑戦”秘話
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2024/03/13 06:00
花巻東高時代の大谷翔平。当時は高校卒業後に日本の球団を経ずにMLBに挑戦するという異例の選択を表明していた
話の流れが「将来」に触れそうになっても、自らの「心がけ」について丁寧に語り、こちらの「記者としての仕事」もちゃんと尊重してくれた。
花巻東高・大谷翔平選手は、こちらの問いに迷ったり、悩んだり、口ごもったりすることは決してなかった。いつも、きれいな即答だった。
但し、どんな場合もこちらの目に視線を据えて答えてくれることはなかった。
話す時の彼の視線は、いつもこちらの頭上あたりに据えられていて、最初の頃は、後ろに誰か立っているのか……と思わず、振り返ってしまったりしたものだ。
あれは、大谷翔平投手の全力投球を受ける取材でうかがった時だ。花巻東高グラウンドの三塁側ブルペン。
「久しぶりのピッチングですけど、肩が軽くて、今日は調子いいです」
受けるこちらとしては、むしろ肩が重くて調子イマイチぐらいにしておいてほしかったのだが、その言葉通り150キロを超えるすばらしいバックスピンの快速球も交えて、およそ30球。佐々木監督には「よく捕れますね……」と呆れられたが、正直、構えたミットに大谷投手が投げ込んでくれたからだと今でも思っている。
「やっぱり、向こうなの?」の問いに高校生の大谷は…
スライダーの最初の1球は真っすぐに来て、捕球寸前、真横に吹っ飛んでいった。今、「スイーパー」と呼ばれているあのスライダーだ。
命がけの捕球が終わった直後、「本気勝負」のハイテンションの勢いで、ちょっと訊いてみた。
「やっぱり、向こうなの?」
「いやあ……やってみたいなとか、行ってみたいなとか……はありますけど、まあ、留学というか旅行レベルのイメージですね。生存競争も激しいでしょうし」
本気勝負の直後ですら、大谷投手の視線は私ではない方向を向いていた。