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「数値は裏切りません」慶応高校野球部の“理想的すぎる”11人の学生コーチ…甲子園優勝に導いた「チーム能力を最大化する」言葉とは?
posted2024/03/13 17:01
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Yuki Suenaga
(初出:発売中のNumber1092号[優勝校の独自システム]慶應義塾高校「学生コーチの対話力」より)
慶應高校11人の学生コーチ
夏の甲子園に響き渡った「若き血」。
慶應義塾高校、107年ぶりの全国優勝は既存の高校野球のイメージを変えた。それでも、十分に語りつくされていないこともある。高校生たちに適切な目標設定を促し、成長へと導いた学生コーチの存在だ。
2月20日午後2時、日吉にあるグラウンドを訪ねる。森林貴彦監督は慶應幼稚舎での教務のため、グラウンドに到着するのは夕方。平日の練習の実施は大学生たちに任されている。
現在、慶應高には11名の学生コーチがいる。全員、高校時代はこのグラウンドで白球を追い、大学進学を機に母校のコーチになった。
この日、話を聞いたのは投手担当の松平康稔(法3)、内野担当の片山朝陽(経3)、外野担当の松浦廉(商3)の3人。
投球練習のあとは必ず話し、選手が考えていることを把握
慶應高の特色は学生コーチが戦略、戦術の立案に深く関与していることだ。投手コーチは激戦の神奈川を勝ち抜き、甲子園で勝てる投手陣の構築を進め、野手コーチたちは「チーム能力の最大化」(松浦)を図る。学生コーチたちは日々の練習の中で選手個人の目標を聞き出し、その実現に向け手助けする。
投手担当の松平は選手との対話を重視している。
「各学年に10人前後、投手がいます。投手というポジションは、生きる道がたくさんあります。140kmを超えるストレートで勝負したい。あるいは右のサイドスローから特殊球を投げて相手を幻惑する。面談という改まった機会ではなく、ブルペンでの投球練習のあとには、必ず話す機会を作り、選手が考えていることを把握するようにします」
甲子園の優勝投手である小宅雅己とは、昨年のセンバツが終わって「変化球で空振りを取っていこう」と目標を立てた。
「春の段階ではスライダーが中間球のようになってしまい、空振りが取れずにバットに当てられることが多々ありました。夏の甲子園で勝つためには、スライダーの質を上げたい。練習試合で試し、結果を話し合い、それをまた試す。その繰り返しでした」
実現のためにラプソード(ボールの軌道を分析する機器)を用い、速球とスライダーの見極めを難しくするよう「ピッチトンネル」を意識させた。すると夏になって質が向上し、小宅は甲子園で5試合に登板、28回を投げ奪三振15、与四球は広陵戦の2つだけと安定した投球を見せた。松平は対話を通して小宅のピッチングをデザインし、成功を収めたのである。
また、松平は投手だけでなく、ウェイトトレーニングのコーディネートも担当している。大学2年の春から、慶應義塾大学体育研究所の稲見崇孝研究室でウェイトトレーニングの理論を学び、それを高校生のトレーニングへと応用した。数値目標を提示できるので、選手たちの反応は上々だった。