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ネガティブな報道が多かった“外国人鬼コーチ”「日本人は目を見て話すのが苦手…」なぜエディー・ジョーンズの会見はこれほど面白いのか?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2024/01/18 17:01
1月15日のエディーさんの会見。さながら「エディー・ジョーンズ教授の熱血教室」のようだった
「プレーのモメンタム、勢いを生み出すためには何が必要でしょう。物理の世界では『勢い=質量×速度』で表現できます。日本代表に当てはめてみると、質量、つまり体重を1キロや2キロ増やすことは可能です。しかし、そこには限界があります。つまり、速度を上げることで勢いをつけていく必要があるのです」
エディーさんは「速度の向上」を図るために、様々なトレーニングを用意しているという。欧州にコーチングのネットワークを張り巡らせているエディーさんは、オランダサッカーのアヤックスが採用しているシステムに着目しているという。
「アヤックスには『ディシジョン・メイキング・ルーム』があります。ここでは、若い選手たちが正しい判断をし、そのスピードを上げるトレーニングをします。それがラグビーにも応用できないかを検討しているところです」
「なぜゴリラには白目がないのか?」
判断スピードと関連して、「目を使うスキルの強化」も重点強化項目に入っている。この説明をするとき、エディーさんは記者の目の前に立ち、ゴリラのことを説明し始めた。
「ゴリラ同士で目をじっと見つめても、そこから感情を読むことはできません。なぜなら、ゴリラには“白目”がなく、目による感情の表現が出来ないのです。人類は白目を使って感情を伝達することが可能だからこそ、動物の世界で頂点に立つことが出来たのです。日本代表は目を使ったトレーニングを継続していきます」
言葉ではなく、目を使ったコミュニケーションによって、チームとしての判断スピードを上げていく目論見だ。
実は、アイコンタクトによるコミュニケーションは、日本代表のウィークポイントである。なぜなら、日本の文化習慣として面と向かって話をするとしても、相手の目を見つめることは稀で、特に目上の人間の目を見ることを避けがちだからだ。
また、日本代表にはトンガ出身や、リーチマイケルのようにフィジーにルーツを持つ選手もいるが、彼らも目上の人に対しては目を合わせないようにする。かつて、リーチが私に教えてくれたのは、次のような考察である。
「トンガ、フィジーの人たちは部族の長をすごくリスペクトする。年長の人たちに対しても敬意を払って、ダイレクトに目を見ることはしない。それは失礼なことになるから。日本とアイランダーの文化はちょっと似ているんです。だから、日本代表で上手く文化が融合してきた気がする」
「ラグビーがしたくてたまらなかった世代」
これからは、相手が瞬時に何を考えているのか、理解できるチームを作るために、「セレクションには一貫性を持たせる」という。
第2期エディー政権は、2月にトレーニングスコッドによるミニキャンプを実施し、6月から合宿に入り、6月22日に東京・国立競技場で、一昨年までエディーさんが指揮を執っていたイングランド代表とテストマッチを戦う。
超速ラグビーを実現するために、果たしてどんな人材を選んでいくのか。大学生、高校生にも目配りをしているだけでなく、アンダーカテゴリーの監督との連携も図っている。
「高校日本代表の高橋智也監督、U20日本代表の大久保直弥監督とはすでに話をして、コンセプトを共有しています」
どうやらそれだけではなく、特定のチームのコーチングにも出向く予定があるらしい。
いったい、どこまでラグビーが好きなのか……。
「私たちの世代は、ラグビーがしたくてたまらず、早く仕事が終わらないかと願っていた世代です。1995年にプロ化の時代が到来しましたが、しばらくはラグビーへの愛にあふれた選手たちが多かったように思います。いまは、プロ化の時代です。お金をもらう方法としてラグビーをプレーする世代が大多数の時代になってきました。私は、日本代表でラグビーに愛があり、成長に対して貪欲な人間を求めています」
さて、エディーさんの熱は、今後どのように表現されていくのであろうか。