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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
箱根駅伝5区「実際に歩かないとわからない」本当の“難所”とは? 標高874m“国道1号最高地点”で味わった感動「学生ランナーはスゴすぎる」
posted2024/01/02 11:11
text by
松下慎平Shimpei Matsushita
photograph by
Shiro Miyake
※取材は交通ルールに従って安全に注意しながら実施しました。
同行した編集者(万年帰宅部)は小涌園でリタイア寸前
時刻は正午過ぎ。ゴールの芦ノ湖までの距離は、あと約半分。
箱根駅伝5区登山隊の私と編集者A氏(以下、A)は、さらに傾斜のきつくなった国道1号を歩き始めた。股関節の消耗度は既に上限に達し、一歩ごとに痛みで視界が歪む。
が、同時にそれが懐かしい痛みであることを思い出した。中高の陸上部での練習は、こんな痛みと苦しみの繰り返しの日々だったと、箱根の坂に記憶の蓋を開けられたのだ。苦痛のピークをいかに乗り越えるかが長距離選手の腕、ひいては脚、心の強さの見せ所である。
現役時代のメンタルが呼び起こされ、歩みに力の入る私とは対照的に、Aの足取りは重くなっていく。万年帰宅部であったというAには、フィジカル以上にメンタル面できついはずだ。
めっきり口数の少なくなっていたAが急に多弁になったのは、10km過ぎの小涌谷踏切の辺りであった。
「郵便局だ!」「消防署がある!」「踏切だ、電車通るかな!」
目に入ったもの全てを言葉にする彼に、あまりの辛さに幼児退行してしまったのかと焦りを覚えたが、痛みと苦しみを紛らわすために喋っているのだとわかり少し安心した。とはいってもAが限界間近であることは間違いない。
「もうバスに乗ってゴールで待ってたら? その方が記事にしたときに面白そうだし」
半ばリタイアを促すように助言する。メンタル面での余裕は生まれてきたものの、1人になって自分のペースで進む方が心身ともに楽であるという打算もあった。
しかしAは「大丈夫です」とうわ言のように繰り返すばかりで、頑なにリタイアの提案を飲もうとはしない。足を引きずり、息を切らし、わずか1m先の地面だけを見据えて進むその姿は、限界を迎えても襷を繋ごうと必死に駆けるランナーと重なって……は見えなかった。
それはそうだ。コンビニの喫煙スペースを見つける度に元気を取り戻し、肩で息をしながらうまそうに白煙を燻らすランナーなんかいてたまるか。