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箱根駅伝5区「実際に歩かないとわからない」本当の“難所”とは? 標高874m“国道1号最高地点”で味わった感動「学生ランナーはスゴすぎる」 

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松下慎平

松下慎平Shimpei Matsushita

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photograph byShiro Miyake

posted2024/01/02 11:11

箱根駅伝5区「実際に歩かないとわからない」本当の“難所”とは? 標高874m“国道1号最高地点”で味わった感動「学生ランナーはスゴすぎる」<Number Web> photograph by Shiro Miyake

小田原中継所をスタートして約5時間、箱根駅伝5区の国道1号最高地点に到達。“スポット参戦”したカメラマンが筆者の疲弊した背中を撮影

歩数は約3万歩…芦ノ湖で待っていた“ご褒美”とは

 テレビ画面の中で幾度となく目にした、箱根の山を背にゴールテープを切るランナーたちの姿。我々の目がとらえているのは、そのランナー視点のゴールの風景である。

 いや、違う。

 ランナーがゴールの先に見るのは、孤独の先で自分を信じてくれていた仲間たちの姿だろう。しかし我々には待ってくれている仲間など当然いるはずもない。ゴールの先には、遮る人や物のない開かれた景色が広がっている。

 そこで見たものは水面をキラキラと美しく揺らす芦ノ湖と、遠くに聳える雄大な富士の山の姿だった。

 待つ人のいないゴールだからこそ、思う存分に味わうことができた景色。箱根の山は、どうしようもない我々にも素晴らしいご褒美を用意してくれていたのだ。

 所要時間は道中での休憩も含めて約6時間半。歩数にして3万歩超の旅路であった。

 ゴールした我々は絶景をバックに何枚かの記念写真を撮影し、余韻も冷めやらぬうちにタクシーに乗り込んで芦ノ湖を後にした。

「はい、箱根湯本駅までね。えっ? 5区を歩いたの? ははは、そりゃあ大変でしたねえ。でも、たまにいるんですよ、お客さんたちみたいな人」

 箱根駅伝フリークらしい運転手さんの軽妙なトークに耳を傾けながら、一瞬のうちに移り変わる車窓の景色を眺める。徒歩で6時間半かかった道のりを、タクシーは30分弱で駆け抜けた(注:タクシーが走ったのは国道1号のバイパスである箱根新道)。文明の力にこれほど感謝したことは過去にない。同時に、車でも30分かかる道のりを上り1時間10分台、下りは1時間を切るタイムで駆け抜ける学生ランナーの脚力にあらためて驚嘆する。

 タクシーの運転手さんにお礼を告げ、夕暮れが迫る箱根湯本駅で思う。もう二度とこんな無謀な挑戦はすまい、と。

「来年の箱根駅伝、5区の選手たちを見たら、きっと泣いちゃうだろうな」

 新宿行きのロマンスカーの車内で、思わずそんな言葉が漏れた。20.8kmぶんの実感を込めた感傷的なつぶやきが、口を大きく開けて爆睡するAに届くことはなかった。

<前編から続く>

#1から読む
箱根駅伝“山上りの5区”は実際どれほど過酷なのか? 元陸上部のお笑い芸人が20.8kmを歩いてみた「股関節がヤバい」「壁のような急坂が…」

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