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吉田輝星の弟が涙「次は死に物狂いで」金足農“その後”「伝統を一変させる、が正解なのか?」「髪は五厘刈り…選手が決めた」変革に揺れる今
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2023/11/25 11:03
金足農業のキャプテン・高橋佳佑(左)とエース・吉田大輝
「金足の原点は精神野球」
2018年の準優勝当時、コーチを務めていた伊藤誠は、そのときすでにこんな風に語っていたものだ。
「昭和59年(1984年)に金農がベスト4に入ったとき、僕は小学5年生だった。子ども心にものすごい感動しましたよ。吉田の弟が今、小学5年生なんです。大輝たちも小学5年生のときに、この準優勝を目撃した。小学5年生なら、まだまだ時間がありますから。今、甲子園の試合が植え付けられて、いつか自分たちも金足で……って思ってくれれば」
伊藤はこんな話もしていた。
「金足の原点は精神野球。練習でも試合でも、全力疾走と、声を出すことは絶対です。戦術は、送りバントとスクイズ。バッティングは水物なんで、時間があればノック、ノック、ノック。どこの高校もやらなくなった野球をひたむきにやってさえいれば、何か起きんじゃねえかなって思えるんですよね。甲子園で見せた野球は、金足じゃなきゃダメだと思うんです。あの紫のユニフォームで、(胸に)『KANAKO』ってないと。あと、吉田輝星がいないと」
吉田輝星はもういない。だが、代わりに吉田大輝がいる。
変えなかった「頭髪」「戦い方」
金農は変わったし、今も、変わろうとしている。だが、変わらないものもある。頭髪に関しては選手たち自身で話し合って決めた。従来通り、今も大会前になると部員全員が自ら五厘刈りでそろえる。
高橋佳佑は「自分たちは自分たち」ときっぱり言った。
「むしろ、どこの高校よりも短くすることで気持ちが入るっていうか、俺らはそれだけ野球にかけてんだ、という表現の一つだと思ってやってます」
愚直な戦い方も今まで通りだ。東北大会の準々決勝で、金農のスクイズを外すなどして競り勝った学法石川の監督、佐々木順一朗は呆れているようでもあり、感服しているようでもあった。
「金農はランナーが三塁にいたら150パーセント、スクイズですから」
コーチの高橋佑輔は可能な限り変化を受け入れつつ、しかし、譲れないところは自分なりの方法で選手たちに圧力を加えた。
「内野ノックの最初の1本でエラーした選手は、その日、二度とノックは受けられないことにしたんです。そうしたら、1本目から足がガタガタ震えますから。でも、そういう中での練習でなければ試合で役立ちませんよ。この秋は僕は守備の勝利だと思っているんで。そこだけは妥協しないでやってきましたから」