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「コーチに喧嘩腰」「上下関係は絶対」あの金足農が揺れた“改革プロジェクト”の裏側「次の年に吉田大輝が入学…そのタイミングで事件が」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2023/11/25 11:01
今秋、秋田県大会を制した金足農業。5年前の快進撃から何があったのか?
「うちはコーチたちとの練習がいちばんでかい壁。相手チームとやる前に、そこで勝たないといけないんです。こんな練習する意味あんのかなみたいなという葛藤は常にありました。でも気づいたら、やらされる練習から、自分たちでやる野球になってたんです」
異色だった考え方…“だから”快進撃は起きた
金農では、グラウンド整備や道具運びは主に下級生の仕事だった。そうした古めかしい上下関係を排除する部も増えたが、金農では上級生と下級生の「不平等」は厳然と存在していた。
また昨今、デリケートになった投手の球数問題に関しても金農の考え方は吹っ切れていた。
2019年秋、日本高校野球連盟は「1人の投球数を1週間で500球以内にする」という制限を設けた。ところが、あの夏、吉田は最後の1週間で4試合に登板し、570球も投げている。
決勝でも先発した吉田は、明らかに疲労困憊に映った。その吉田に、さすがに決勝は先発を回避したかったのではと聞くと、何を馬鹿なことを言っているんだという顔をし、こう返された。
「他のピッチャーに活躍されたら困るんで」
とはいえ、親だけは違うだろうと思った。ところが高校時代、金農の控え投手でもあった父の正樹は、ある意味で、誰よりも潔かった。
甲子園終盤はさすがにもう投げさせないで欲しいと思ったのではと聞くと、「いや、それはなかったですね」と穏やかな口調で否定し、何でもないことのように言った。
「そこで駄目になったら、そこまでの選手だという考えなので。なんぼ投げても壊れないやつは壊れない。壊す選手は投げ過ぎなのではなく、違うところに原因があるんじゃないかと思ってるんです」
副キャプテンだった佐々木大夢はこう補足する。
「普通に考えれば、何らかの投球制限は必要なんだろうな、って思うんでしょうね。でも僕らはケガをしない体づくりをすればいいという考え方だった。ケガをしたら、ケガをしたやつが悪いって処理される。金農は今の時代の考え方とは99%、逆をいってましたね」
指導者も、選手たちも、そして親も納得ずくだった。だとしたら、どんな指導方針であれ、他人が入り込む余地はもはやない。
説明のつかない快挙は、説明が及ばない考え方に裏打ちされていた。
「伝統だから継承」を変えるプロジェクト
今にして思うと、金農フィーバーが起きたのは平成最後の夏だった。ギリギリだった、そんな気がしないでもない。
金農は、岐路に立たされていた。