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「コーチに喧嘩腰」「上下関係は絶対」あの金足農が揺れた“改革プロジェクト”の裏側「次の年に吉田大輝が入学…そのタイミングで事件が」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2023/11/25 11:01
今秋、秋田県大会を制した金足農業。5年前の快進撃から何があったのか?
金足農業の行く末を案じたOB会の副会長、長谷川寿はプロのコンサルタントに依頼し、「未来創造プロジェクト」を立ち上げる。そして、2022年10月から翌年6月まで、週1回のペースで専門家、スタッフ、OB、保護者らを集め、リモートで対話を繰り返した。
長谷川が説明する。
「もちろん、改革に抵抗感を覚える人もいた。そんなことをしたら、金農のよさが失われてしまうではないか、と。でも、そういう人ほど積極的に声をかけて、会議に参加してもらいました。別にわれわれは金農らしさをすべてなくせと言ってるわけではないんですよ。ただ、伝統だから継承するというのではなく、残すのならその意味を考えましょうよ、ということ。それを時間をかけて、理解してもらったつもりです」
甲子園準Vメンバーの“戸惑い”
だが改革の半ば、この年の春からスタッフに加わった高橋佑輔(2018年甲子園準優勝メンバー)は、その急激な変化についていけず、戸惑ったという。
「もう、ノックの途中でブチ切れて、やめたこともありました。『おまえら、もうやんなくていいよ』って。エラーしても『もう一本!』とボールを呼ぶわけでもない。シラーッとしてる。『声出し』をやらないとか、あいさつは『オス!』じゃなくて普通にするとか、そういうのはぜんぜんいいんですよ。でも、気持ちが感じられなくなったら終わりじゃないですか。これがお前らの目指す新しい野球なの? って」
長谷川が改革を急いだ理由は、もう一つあった。
「次の年、吉田大輝が入学してくることになっていましたから。彼を慕って、金農に来てくれる選手もいると聞いていたのに、そのタイミングで暴力事件が起きてしまった。金農が変わろうとしていることを示さなければ、そういう選手たちの気持ちも離れていってしまうと思ったんです」
吉田大輝とは、吉田輝星(オリックス)の5歳下の弟である。
〈#3「吉田輝星の弟・大輝はどんなピッチャー? 関係者の証言」編につづく〉