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「SNSは選手の素顔を」「大学に縛り付けない」「選手は『さん』付けで」…《元100m日本王者》伊東浩司が“自由と個性”を活かす指導を選ぶワケ
posted2023/11/19 17:02
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph by
JIJI PRESS/Shigeki Yamamoto
近年、甲南大学(兵庫)が学生女子スプリント界を席巻している。9月の日本インカレ100mで1、2年生が表彰台を独占。4×100mリレー(R)では学生歴代2位となる44秒52をマークし、学生記録に0.01秒まで肉薄した。10月の日本選手権リレーでは2連覇を達成。その勢いは、かつて女子スプリントをリードした福島大に近いものを感じさせる。
東京五輪4×100mリレー代表の青山華依(3年)を筆頭に、学生トップスプリンターたちを育てているのは、男子100m元日本記録保持者の伊東浩司氏だ。伊東氏が重視するのは、従来の体育会的雰囲気ではなく、選手の個性と自主性を尊重した自由な環境である。第3回目は彼女たちを輝かせる、伊東氏による令和のチームマネジメントについて聞いた。(全3回の#3/#1、#2へ)
「これだけのびのびしている子たちが全国でぱっぱっと上位に入るのは不思議だなと思いますね。他の人が指導したらもっと強くなるのかなとも思いますが、彼女たちの個性を出せているからこそ、この結果に繋がっているのかもしれませんね」
そう語る伊東浩司氏は言うまでもなく、日本の新たな短距離の歴史を切り拓いた人物だ。
1998年のアジア大会男子100mで、当時のアジア記録ともなる、日本新記録の10秒00をマーク。この記録は、2017年に桐生祥秀が日本人初の9秒台に到達するまで、20年近く不動のものだった。東海大から富士通に進んだのち、鳥取のトレーニングジムで初動負荷理論を学び、当時は異端とされた膝を高く上げず、滑らかに重心移動する「すり足走法」のパイオニアでもある。
伊東氏が富士通を退社し、甲南大に専任講師として着任したのは2001年。その1年後、陸上部に女子部が創設され、伊東氏が指導を受け持つことに。当時の部員は既存の選手と新入生を合わせた6名。そこから徐々に部員数を増やし、関西インカレ4×400mリレー5連覇などの実績を重ね、関西屈指の強豪へと育て上げた。
最初は「世間一般の強豪校の雰囲気」を目指していた
これまでのチーム運営について尋ねると、数年前までは「世間一般の強豪校のような雰囲気を目指していた」と明かす。
「もう今とは真逆でしたね。他大学さんと同じように、いわゆる昭和の流れを汲みながら、自分が経験してきた“体育会”に近いものをやっていました。今となれば、当時の子たちには申し訳ないのですが、ある程度こちらのイメージする型にはめ込んでいたと思うし、ましてや『オシャレしたい』なんて言えるような環境は作っていなかった、というのが正直なところです」