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“合奏団のチェロ少女”が100mの学生王者に…《次世代スプリンター》蔵重みうの成長曲線「甲南大は“陸上だけの人生”と考えてないのが素敵だなって」
posted2023/11/19 17:00
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph by
Shigeki Yamamoto
近年、甲南大学(兵庫)が学生女子スプリント界を席巻している。9月の日本インカレ100mでは1、2年生だけで表彰台を独占。4×100mリレーでは学生歴代2位となる44秒52をマークし、学生記録に0.01秒まで肉薄した。10月の日本選手権リレーでは2連覇を達成と、圧倒的な強さを見せている。その強さの裏にある秘密とは――? 第1回は“学生最速スプリンター”となったスーパールーキーにインタビュー。(全3回の#1/#2、#3へ)
“学生最速”を決める9月の日本インカレ女子100mを制した甲南大1年の蔵重みう(19歳)。
昨年のインターハイ100mを制した高校女王は、男子100m元日本記録保持者・伊東浩司氏の指導のもと、日本選手権100m3位入賞・アジア選手権4×100mリレー代表に選ばれるなど、ルーキーながら女子短距離のトップ選手に育ちつつある。
高校&大学の“日本一”の称号を手にした期待のホープは、どんな未来を描いているのだろうか。
◆◆◆
ニューヒロインの登場は鮮やかだった。
9月に埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われた日本インカレ女子100m決勝。7レーンに入った蔵重は中盤から伸びやかに加速し、真っ先にフィニッシュラインに駆け込んだ。
同種目で1年生が優勝するのは、2007年の高橋萌木子(平成国際大)以来16年ぶり。さらに、蔵重が11秒76(−0.3)、岡根和奏(2年)が11秒78、奥野由萌(2年)が11秒81と甲南大トリオが表彰台を独占したのだ。これは女子100mで大会史上初の快挙となった。
蔵重は意外にも、1年生優勝を決めた直後はあまり喜ぶ様子を見せなかった。感情をあらわにしたのはその数分後。電光掲示板に岡根、奥野の名前が並んだことを確認すると、わっと声をあげて大きく飛び跳ねた。
「これまで決勝ラウンドに同じ学校の選手が揃って進めたという経験がなかったんです。もちろん個人種目なので自分の順位も大切なのですが、あのときは優勝より『チーム甲南』としての強さを見せられたという喜びのほうが勝っていたというか……。やっぱり私はいい大学、いいメンバーに恵まれたなと改めて感じた瞬間でした」
合奏団のチェロ少女が「学生最速」にたどり着いた経緯は…?
大学1年目にして“学生最速”の称号を手にした彼女だが、幼い頃から世代トップをひた走っていたわけではない。小学校中学年までは、合奏団でチェロを嗜む音楽少女だった。
「スポーツはあまりやらなくて、どちらかと言えば公文とか、お勉強を頑張っていました(笑)」
そんな蔵重が短距離に出会ったのは小学5年生のころ。地元の記録会の100mと4×100mリレーで、学校代表としてバトンを繋いだのが始まりだった。
「その記録会で運良く100mで優勝することができたんです。元々走ること自体は好きだったのですが、初めて“勝負の中での走り”というのを経験して、楽しいなって感じたところがありまして。たまたま合奏団の先輩が陸上のスポーツ少年団にも入っていて、その父兄の方から勧誘してもらいました。もっと色んな人と一緒に走ってみたいという気持ちが大きかったのだと思います」
こうしてチェロをバトンに持ち替えた蔵重は、スプリンターとしてのキャリアを歩み始める。