「広岡達朗」という仮面――1978年のスワローズBACK NUMBER
「巨人のユニフォームを見ただけでチビったよね(笑)」ヤクルトの大エース・松岡弘が語る“全盛期の王・長嶋”の恐ろしさ「とにかく重圧が…」
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/21 17:02
昭和のプロ野球の象徴ともいえる巨人の王貞治と長嶋茂雄。全盛期のONと対戦した松岡弘は「とにかく重圧がすごかった」と当時を振り返る
広岡が森に求めていたのは、まさにこの姿勢だった。巨人Ⅴ9の司令塔であり、ジャイアンツのすべてを知る森に巨人戦士を丸裸にさせ、同時に「お前たちの方が上なのだ」と説き続けさせる。森は見事に自らの役割をまっとうしていた。
松岡はこう証言する。
「森さんからは、“Ⅴ9の選手たちも、もうそろそろ歳だ”とは何度も言われていましたね。実際に僕らもそう感じていたし、ちょうどいい時期だったんだと思いますね」
対巨人は「7勝19敗」から「10勝9敗7分」に
前述したように、前年の1977年は巨人相手に7勝19敗と大きく負け越したものの、78年は10勝9敗7分と、わずか1勝ながら勝ち越すことに成功した。広岡が掲げた「ジャイアンツコンプレックスの払拭」は一応の成果を挙げた。そして、6月6日から7月1日までの「空白の26日間」を過ごした松岡も、シーズン終盤の大切な時期にフル回転を果たした。
9月17日には、待望のマジック14が点灯。19~21日の中日とのダブルヘッダーを含む4連戦では「3夜連続サヨナラ勝利」という神がかり的な強さを見せつけた。その後も着々とヤクルトはマジックを減らしていく。松岡は1日の阪神戦、6日大洋戦、10日阪神戦、17日広島戦、19日中日戦、27日大洋戦と、9月だけで6勝をマーク。エースとしての存在感を見せつけた。
そして、ついに歓喜の瞬間を迎える。10月4日、本拠地・神宮球場で行われる対中日24回戦。松岡にとっての晴れ舞台がやってきたのだ――。
<#4に続く>