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あの決勝を超える景色を。世界一を知る捕手、中村悠平が語る準備と覚悟
posted2026/02/18 11:00
2大会連続となるWBC出場を前に、意気込みを語った中村悠平
text by

福田剛Tsuyoshi Fukuda
photograph by
Takuya Sugiyama
「もう光栄の一言です。前回大会に引き続き、日の丸を背負ってプレーすることのありがたさ、重みを感じていますし、また素晴らしい景色を見られるようにしっかりと準備していきたいと思います」
2023年大会に続き侍ジャパンの扇の要、キャッチャーとしてWBCを戦うメンバーに選出された中村悠平は、改めて今大会への想いをこう語った。
今大会からピッチクロックが導入され、ベースも拡大。牽制球も制限されるなど、すでにMLBで適用されているルールが導入される。馴染みのないNPB組にとってはしっかりとした準備が求められる。
「ピッチコムを使って投手にサインを出さなければならないので、正直違和感はあります。でも、そこは選ばれたキャッチャーやコーチたちとアイデアを出し合って、本番までに仕上げていきたいです」
3人のキャッチャーの中でWBCを経験しているのは中村、ただ1人。チームを見渡せば自分よりも年上は36歳の菅野智之しかいない。キャッチャーとしてだけではなく、チーム内でも年下の後輩たちをリードしなければならない立場となった。
「前回はWBC初出場で、国際試合の経験豊富な甲斐選手がいてくれたことが非常に心強かったので、2人に思い切ってプレーしてもらうためにも、僕が経験したことや気づいたことは2人に伝えてあげたいと思っています。普段なかなか交流する事ができない日本人メジャーリーガーも合流しますし、侍ジャパンの雰囲気に慣れるのも結構難しいところがあると思うので。合宿から決勝まで約1カ月間しかないなかでいいチームを作り上げるために、年長者としてプレー以外の部分でもチームを一つにできるように頑張りたいと思います」
コンディショニングと配球の共通点
「野球は準備で決まるスポーツ」と中村は言う。
「ピッチャーをリードするために相手バッターを分析したり、相手のピッチャーを攻略するために研究することも準備ですけども、コンディションを整えることも大切な準備だと思うんです。いろいろな準備の積み重ねが試合でのパフォーマンスにつながることは間違いないので、事前にできることはしっかりやるように常に心がけています」
若い頃はコンディショニングにそれほど気をつかう方ではなかったが、年齢を重ねるにつれてその大切さを感じるようになった。
「極端な話ですけど、20代の頃はアップなしでも練習くらいなら十分体が動いていました。それが今では練習前は入念にストレッチして、体調と相談しながら強度を上げていくようになりました。怪我をしたことで意識が高まったというのもありますし、もし、やるべきことをやらずに納得いくプレーができなかったり、怪我をしてしまったりしたら悔いが残る。『自分の体と相談する』という言葉の大切さがよく分かるようになりました」
今では試合開始の6時間前にはスタジアムに入るのが、ルーティンとなっている。
「シーズン中はナイターが多いので、18時のプレーボールに合わせ、12時には球場に入ります。まずはお風呂に浸かって体を温め、その後ストレッチで体をほぐします。状態がいいときはそのまましっかりほぐして。動きが硬いと感じたらバイクを漕いだり、ジョグをしたり、体を動かしていつもより多めに汗をかくようにしています。それでも調子が上がらないときは発想を変えて、気分転換に美味しいものを食べにいくこともあります」
コンディショニングの考え方は、「配球と同じ」と中村は言う。
「リードって自分のなかで核となる筋を1本持っておいて、そこに付け足していくものだと思っているので。コンディショニングもその日の体調に合わせてルーティンから枝分かれさせたり、足したりしていくという感覚です」
レギュラーシーズンだけでも、年間143試合を戦い抜くプロ野球の世界。相手バッターに合わせて配球を考え、ピッチャーをリードする捕手の頭は試合中、常にフル回転している。
「確かに試合が終わった後は体の疲れよりも、頭の方が疲れているのを感じます」
脳をリフレッシュするために中村は、「その日のことを考えるのは夜12時まで」を実践している。
「次の日も試合があるので、その日の失敗を引きずりたくないんです。でも、反省はしなくてはならない。そこがキャッチャーの難しいところです。だから12時まではいろいろと考えて、それ以降は切り替える。音楽を聴いたりして気分を切り替えて一切考えないようにしています。若い頃はそれができなくて前日の試合のことを引きずったままリードするので、余計に上手くいかない。その繰り返しでした。頭のリセットができるようになったことが、プロに入って一番大きな成長かもしれません」
震えが止まらないほどの重圧
いくらしっかりと準備をしていても、その予想を遥かに超えてくるのがWBCの舞台だ。前回大会では改めて一球の重みを感じた。
「日本ラウンドの韓国戦でダルビッシュさんがいきなりツーランホームランを打たれたり、準決勝のメキシコ戦でも佐々木朗希投手がスリーランを浴びました。あんなすごいピッチャーでも打たれることが驚きでしたし、国際大会での配球では冒険をしない方がいいということを学びました。ただ、全部安全策で抑えられるかというと、それはそれでダメ。準備したデータと感性も合わせながら、ここぞという場面ではしっかり勝負することが求められる。だから難しいんですよね」
精神的な面でも、WBCは別物だった。日本シリーズにも出場したことのある中村でさえも、「これまでの野球人生で味わったことのないプレッシャー」というほどの重圧を感じた。
「WBCで初めてマスクを被ったのが、日本ラウンド2戦目の韓国戦だったんですけど、野球に限らずスポーツで日韓戦となるとどうしても負けられないということでメディアが騒ぐでしょ。しかもWBCではイチローさんとの因縁もありますから。ものすごいプレッシャーを感じて、プレーボール直前にベンチ座ったときに、手の震えが止まらなかったんです。あんなに緊張したことはなかったですね。でもそのプレッシャーが嫌かというとそうでもなくて、日の丸を背負ってプレーしなければこんなプレッシャーを感じることはできなかったので、逆に幸せに感じました。ただ、試合が終わったらめちゃくちゃ疲れていました。それなのに、アドレナリンが出ているから興奮してなかなか寝つけない。何から何まで初めての体験でした」
今回のWBCではTENTIALが侍ジャパンのコンディショニングを、リカバリーウェア『BAKUNE』でサポートする。実は中村悠平は数年前から『BAKUNE』を愛用している。
「僕は『BAKUNE』の着心地がすごく大好きで。『BAKUNE』を着ているとリラックスできるので、そのままスッと寝ることができています。しっかり睡眠がとれると前向きな気分になれます。着るものを変えただけで、1日が始まる朝を前向きな気持ちで迎えられるようになったのは驚きでした。そういう意味では『BAKUNE』を着るところからが、僕にとっては次の日の準備なのかもしれません」
3年前、決勝の舞台で最後のバッター、マイク・トラウトを空振り三振に仕留めたシーンは、今も脳裏に鮮明に焼き付いている。
「(大谷)翔平がピッチャーマウンドにいて、バッターボックスにいるのはマイク・トラウト。その場面にまさか自分がキャッチャーでいるという……。今思い返しても本当にわけの分からない状況ですよね。こんなことは起こるはずがないと思っていたことが、現実にあったわけです。キャッチャーをずっとやっていると苦しいことばかりで、幸せなことなんてほんの一握り。だから前回大会の世界一はずっと我慢してキャッチャーを続けてきた自分へのご褒美だと思っています。こういうことがあるからまだまだ辞められないし、夢のような出来事を経験してしまったからこそ次はもっとすごいこと、すごい景色があるんじゃないかとワクワクしています」
2023年の決勝を超える景色。その先には侍ジャパンの歓喜の輪が広がっているはずだ。



