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プレミアリーグ勢が6クラブ進出…戸田和幸が激戦必至のUEFA CLラウンド16を徹底解説「欧州の覇権の行方を占う“5”のポイント」
posted2026/03/05 10:30
左からリバプールのファンダイク、アーセナルのアルテタ、マンチェスター・シティのハーランド
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木崎伸也Shinya Kizaki
photograph by
AFLO
強度も戦術も、前人未到の領域に突入したと言っていいだろう。2025-'26シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)は、リーグフェーズ最終節にレアル・マドリーがベンフィカに敗れてトップ8から転落するなど、すでに名勝負と波乱に満ちた大会になっている。
リーグフェーズで最大の話題になったのは、プレミアリーグ勢の絶好調だ。アーセナル、リバプール、トッテナム、チェルシー、マンチェスター・シティがトップ8に入り、ラウンド16へのストレートインを決めた。さらにニューカッスルもプレーオフで勝ち上がった。彼らの存在が明らかにCLのレベルを引き上げている。
なぜプレミア勢はこれほどまでに強いのだろう? 元日本代表の戸田和幸氏に「欧州覇権争いのポイント」を聞いた。
①プレミア勢のハイプレス慣れ
プレミアリーグの資金力が突出していることは、もはや説明不要でしょう。選手、監督、スタッフに大金を投じ、どのクラブも攻守とその切り替えという4局面すべてに意図を持って戦うようになりました。戦い方に隙がありません。そういう熾烈な競争の結果、プレミアリーグでは、もはやインプレー(流れの中のプレー)で簡単に崩せなくなっているんです。前へ出てボールを奪いに行くときはマンツーマンベースの守備が標準化され、構えて守るときは影響のない相手にボールを持たせてカウンターを設計する。簡単にボックスに入れません。だから、どのチームもセットプレーにこだわるようになり、ついに上位チームまでロングスローを投げるようになりました。
プレミア勢はそういう日常を過ごしているので、現代フットボールの新たな強度に慣れている。それが強みのひとつになっています。
②アーセナルの超ハードワーク
そのプレミア勢の中でも、驚くべき強度の高さを見せているのがリーグフェーズを全勝で終えたアーセナルです。「サボることを許さない」という雰囲気がある。ミケル・アルテタ監督のバスク人の気質がよく表れているかも知れません。
アーセナルの攻撃に関して言うと、ボールをしっかり動かして相手を押し込んで崩す……みたいなことはあまりやらないんですね。いい意味でポゼッションに傾倒しすぎていない。ピッチのどの場所にいても、早くゴールに向かうことを意識している。相手が守備陣形を築く前に攻めるためです。ものすごいスピードでピッチを移動します。その分、みんなが走らなければなりません。興味深いのは、インプレーで崩し切らなくてもいいと割り切っていること。彼らはセットプレーを磨き込んでおり、最終的にセットプレーで点を取ればいいと考えているのです。守備でも本当によく走ります。ビュンッ、ビュンッと前線の選手が次々に前へ出て、もしプレスを外されてもすぐに戻る。アーセナルの試合で、選手の息が上がっているのをよく目にしませんか? あのレベルのアスリートでもものすごい負荷なんですよ。
高いレベルの個人戦術と連係に基づいたハードワーク。あっぱれです。
③「9番」の新たな役割
個人的にこのアーセナルのフットボールで機能し始めたのが9番(センターFW)のビクトル・ギョケレシュです。攻守にものすごく走って、得点以外の仕事でもチームに貢献しています。特に効いているのが、相手に体をぶつけるポストプレー。アーセナルが前線へロングボールを蹴る瞬間、ギョケレシュが相手DFに体をバンッ! とぶつけて、こぼれ球をつくるんですね。DFの邪魔をして遠くへ弾き返せないようにするのが目的。FWに本来求められるのとは違うテクニックなので、やりたがらない選手もいますが、ギョケレシュはすごく献身的に実行しています。ロングボールの選択肢があるのはチームにとってものすごく大きいですよ。
トッテナムのソランキも泥臭く相手に体をぶつけられる選手です。
一方、このプレーをあまり好まないのが、マンチェスター・シティのアーリング・ハーランドでしょう。たとえば、2月上旬のリバプール対シティでハーランドは終盤の1得点1アシストで逆転勝利に貢献しましたが、それまではほとんど消えていました。屈強なDFのフィルジル・ファンダイクに睨まれ、裏へ走らないし、体もぶつけないしで、シティの前進を助けられませんでした。シティは相手の守備が機能してロングボールを蹴るしかなくなったときに、苦戦する印象があります。そこが現在の課題だと思います。
④リバプールの鍵はサラー+α
もちろん、必ずしも体を張るFWがいなければならないということではありません。リバプールの場合、右ウイングのモハメド・サラーが内側へ斜めに走ることで、相手を裏返しています。実はサラーは技術的にうまいタイプではなく、能力値のバランスが整っている選手ではないんですね。最大の長所は思いっきり振ったときの左足のシュート。だからゴールへ近づいたときに最も輝きます。紙の上ではワイドの選手ですが、最後はストライカーのポジションに入るということです。
今季サラーが出遅れたのは、やはり右サイドバックのアレクサンダー・アーノルドの退団が大きかったと思います。アーノルドが高精度のロングパスをバンバン前線へ入れ、その恩恵を一番受けていたのはサラーでしたから。しかし、ドミニク・ソボスライが右サイドバックに起用され、リバプールに縦のダイナミックスさが戻ってきました。サラーはここから点を重ねていくと思います。
昨夏に加入したフロリアン・ビルツもようやくフィットしてきました。レバークーゼンと違って自分中心のチームでないので苦労していましたが、最近は味方との距離が近くなり、選択肢を持ったうえでボールを持てるようになった。ビルツの強みは選択肢を見せながら、相手の逆を取ること。それを発揮する環境が整ってきたので、さらにCLの舞台でも活躍するでしょう。
ただ、個人的にリバプールで最も重要な選手はアレクシス・マカリスターだと見ています。ボランチでもトップ下でも、本当に頭が良くチームのバランスを整え、ファイトできる。これぞアルゼンチン人だなって感じですよね。リバプールはCLのノックアウトフェーズでおもしろい存在になると思います。
⑤最後はコンディション
ここまでプレミア勢の強さを紐解いてきましたが、彼らにも懸念材料はあります。そう、プレミア特有の過密日程です。クリスマスや年末年始に他国が休む中、プレミア勢は試合を重ねなければなりませんでした。また、国内に2つのカップ戦(カラバオ杯とFA杯)があります。シーズンの終盤まで好調を維持できるかは未知数です。
いくら資金力があるとはいえ、どのチームにも替えの利かない選手がいます。アーセナルならデクラン・ライス、シティならロドリとラヤン・シェルキ、リバプールならファンダイクとマカリスター、チェルシーならエンソ・フェルナンデスとモイセス・カイセド、トッテナムならソランキです。
簡単に補足すると、シェルキは従来のシティっぽい選手ではないのですが、逆にそれがいいなと。今季のシティは今までよりシステマティックではなくなっていて、即興性が出やすいサッカーになっている。そういう中でシェルキは「そこへパスを通す?」「ここで股抜き?」というプレーができます。今やシティに欠かせない存在になってきました。
一般的にチェルシーはコール・パーマーの名前が挙がりますが、アーティスティックなタイプは消されるときも出てきます。4局面を機能させるには、やはり中盤が重要なのでエンソとカイセドの名前を挙げました。
ここに挙げたような選手が負傷や体調不良で欠けると、競争力が一気に落ちます。
そういう意味でノックアウトフェーズで怖い存在になりそうなのが、ドイツ王者のバイエルン・ミュンヘンです。アーセナル級の強度に加え、バイエルンにはパワーがあります。超ストロングスタイルのマンツーマンを採用しており、ほぼオールコートで相手を捕まえに行きます。彼らのプラス材料は、負傷離脱していた背番号10のジャマル・ムシアラが戻ってきたこと。ある意味、補強と同じ効果があります。さらにブンデスリーガの優勝争いはプレミアリーグほど熾烈ではないというアドバンテージもあります。
プレーオフからの勝ち上がりになりましたが、昨季の欧州王者パリ・サンジェルマンも不気味な存在です。昨夏に開催されたクラブW杯で決勝まで進出した関係でほぼ休みがなく、今季の前半戦は国内リーグでも苦戦していました。しかし、ウスマン・デンベレが負傷離脱から復帰するなど、少しずつギアを上げ始めています。
異次元の強度になり、CLは紙一重の勝負になってきている。シーズン終盤のコンディションが覇権の行方を決定づけるでしょう。








