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プロ野球“じつは育成選手を飼い殺している”問題「まだ8月なのに一軍の可能性ゼロ」「昇格率“わずか2%”の球団も…」あまりに厳しい待遇と現実
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/06 11:03
今年4月に行われたソフトバンク四軍の本拠地開幕戦セレモニーの様子
育成選手の保有数に対してあまりに門戸が狭すぎるのではないか、と思う。
ソフトバンク球団の三笠杉彦GMは木村光の支配下登録の会見に同席した際に理由について問われると次のように話している。
「球団では従前より『育成から支配下』を検討するにあたっては、一軍で活躍できるレベルにあることを基準にしています」
昨年の藤井皓哉が登録された会見でも、その前年の大関友久の時も、さらに遡ってリチャードや周東佑京や大竹耕太郎の時も、同じ言葉を聞いた。
しかし、近年はどこか違和感を覚えてならない。
一軍で活躍できるレベルにあるというのは、つまり絶対評価である。ところが最近は“球団のニーズに当てはまるか”という相対評価も昇格の条件に加わっているのではないか。
活躍したけど「ファーム降格」の選手
特にそれを感じたのが今春のオープン戦。仙台大学から入団して2年目の左打者外野手・川村友斗が一軍オープン戦に12試合出場し打率.357、1本塁打の結果を残したものの、支配下昇格は叶わなかった。
藤本博史監督はその活躍を受けて「これだけいいところを見せて、支配下に近くなってきた」「経験が目的じゃない。戦力として考えている」と当初話していたが、開幕が目前になるとトーンダウン。結局オープン戦最終盤にファーム降格となった。
ソフトバンクには左打ちの打撃自慢がずらり揃っている。柳田悠岐に近藤健介に中村晃。若い世代でも栗原陵矢を筆頭に柳町達、三森大貴、上林誠知もいる。特に同じ外野手の柳町や上林と天秤にかけられたと想像する。
涙をのんだ川村はその後、シーズンでは思うような成績を残せていない。故障もあったが、ウエスタン・リーグでは30試合で打率.235、2本塁打、9打点にとどまっている。
数字だけを見れば、川村はまだ一軍で活躍できるレベルに届いておらず球団の判断が正しかったと考えることもできなくもない。
だが、別の見方をすれば張りつめていた緊張感がプツリと切れてしまったのではないか。川村本人は否定するだろうが、プロ野球選手も感情を持った1人の人間だ。長い取材歴の中でそのような前例はいくつも見てきた。
気になるモチベーション
こんな風に庇うと「それが育成選手だ」「厳しい条件を承知の上で入団したはずだ」という反論を必ず受ける。ただ、現実問題として今季のソフトバンク育成選手たちのモチベーションは例年よりも低いように見えた。一軍オープン戦での活躍が認められなかったことの影響は54人の育成選手全体の心に少なからず影響を与えたのではなかろうか。