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「絶対に移籍させない。引退だ」ボクシング元日本王者に起きた移籍トラブル…勝手に出された“引退届”「不良の神様が作ったジムの悲劇」
text by
細田昌志Masashi Hosoda
photograph byGetty Images
posted2023/07/03 17:01
38歳の現役プロボクサー近藤明広(左)。自らも認める「不思議なボクシング人生」を語る(写真は2017年の世界タイトル挑戦時)
「もう一度、日本王座のチャンスを待とう」というジム側に対し「もう待っていられない。これからは東洋と世界に目を向けたい」という近藤の意見は平行線を辿った。
そして、近藤は何度かの話し合いの末に決定的な一言を口にする。
「だったら移籍します」
すると、会長はこう返した。
「絶対に移籍なんかさせない。それじゃあ、引退だ」
話し合いは決裂。2013年12月26日付で引退届を出されてしまう。「元日本王者・近藤明広引退」というトピックは、筆者も専門誌で目にした記憶がある。
「僕自身としては、日本のリングと決別するつもりでした。タイに渡って、タイのプロモーションと契約しようと考えていたんです。でも、それが全然うまくいかなかった」
折しもこの時期、東洋大学時代の同期生である村田諒太が、ロンドン五輪金メダリストの称号を引っさげ、プロ転向をはたしている。東洋太平洋王者の柴田明雄(ワタナベ)を相手にデビュー戦を戦い、2RTKOに葬るという鮮烈デビューを飾っていた。
「村田君のデビュー戦は観に行きました。勝つだろうとは思ってたけど、まさかあんな圧倒的な試合になるとは想像もしなかった。それに比べて、僕はその年の暮れに引退届でしょう。そのうち練習場所もなくなって、公園でシャドーをやったりして、『あーあ、俺もここまでかなあ』ってさすがに、このときも諦めましたね」
しかし、ここでも“諦め力”が作動するのである。
<続く>