「もうびっくりしました。『落とせます』って即答しました。ただ、内山さんの評判は拓大時代から知っていたし、内山さんとスパーリングをした選手からいろいろ話は聞いていて『強かったなんてもんじゃない。死ぬかと思った』ってみんな口を揃えて言うんです（笑）。だから、どうなっちゃうんだろうという恐ろしさがありました」

「もし、このとき試合がまとまって内山高志と戦っていたら？」と筆者が水を向けると、「多分、倒されていたと思います」と苦笑しながら答えた。

2010年1月、サルガド（メキシコ）を下してスーパーフェザー級世界王者になった内山高志　©JIJI PRESS

「KOダイナマイト」の異名を引っさげ、11度の世界王座防衛。日本人では山中慎介、井上尚弥、井岡一翔と並ぶ「パウンド・フォー・パウンドランキング」に名を列ねた名王者を相手に、勝利の壁が厚かったのは確かに間違いない。だが、ここでも持ち前の“諦め力”が作動した可能性も否定できないのである。

試合10日前に“祝勝会”で敗北

　一躍時の人となった近藤明広だが、落日は思いのほか早くに来た。2度目の防衛戦で荒川仁人（八王子中屋）相手に消化不良の試合を演じ、2－0の判定負けで王座を失ったのだ。

「完全に油断でした。と言うのもこのとき、試合の10日前まで祝勝会をやってたんです。試合を迎える前に祝勝会って、断らない僕も悪いんですけど（苦笑）。試合後、応援席を見たら泣いてる人がいた。それが本当にショックで『ああ、俺は取り返しのつかないことをしてしまった』って……。同時に『チャンピオンベルトは獲ってからの方が大変なんだ』ってことも痛感したんです」

　4カ月後に復帰戦を飾り、そこから再び連勝街道を突き進んだ近藤だったが、リターンマッチの機会はなかなか巡って来なかった。これこそ中小ジムの悲哀だろう。

　王座転落から2年経って、ようやく、王座再挑戦のチャンスが到来した。王者はかつて自身が初防衛戦で一蹴した加藤善孝（角海老宝石）である。「絶対に勝てる」と意気込んで臨んだ試合だったが、意外な落とし穴が待っていた。

「順調な滑り出しでした。コンディションも悪くなかったし、一度勝っている相手だから精神的にも優位に立ててたと思うんです。中盤のセコンドの指示も『このままでいい』だったし、僕もそう思ってました。それで中盤以降、脚を使っていたら、ポイントを取り逃がしてしまったんです」

　結果は2－1の判定負け。「勝てる試合を落とした。今までの中で一番悔しい敗戦だった」と振り返る。

近藤が王座返り咲きに失敗した2012年。ロンドン五輪で同期生の村田諒太は金メダルを獲得。写真はその祝勝会で

「絶対に移籍なんかさせない。引退だ」

　ここから、蜜月だった所属ジムとの間に隙間風が吹くようになる。

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