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「彼は、本気で自分を殺しに来ている」19歳だった井上尚弥の殺気…“井上を最も苦しめた男”が語るあの敗戦「3週間頭痛が止まらなかった」
posted2022/06/06 17:02
text by
林壮一Soichi Hayashi Sr.
photograph by
AFLO
3年前に引退し、いまは指導者としてボクシングと関わる田口に“あの敗戦”の裏側を聞いた(全2回の1回目/後編へ)。
WBA/IBF統一ライトフライ級チャンピオンだった田口良一のラストマッチから、3年余が過ぎた。現在、バンタム級で同じ2団体のベルトを保持する井上尚弥は、「今までで、最強の対戦相手は?」と訊かれる度に田口の名前を挙げていた。
今日、指導者としてボクシングと関わる田口は「今はもう、彼の最強の相手はノニト・ドネアでしょうけれどね」と微笑みながら、井上尚弥について語った。
35歳となった田口は、今も現役時代とさほど変わらない体型を維持している。彼が井上と日本タイトルマッチで戦ったのは2013年8月25日。だが、田口にとってそれ以上に忘れられない出会いが前年にあった。
「2012年の5月に、井上くんからスパーリングの依頼がありました。まだ、大橋ジム所属ではなく、彼のお父さんのジムで練習している頃だったと記憶しています。当時自分は、日本ランキング1位。3月に日本ライトフライ級王者の黒田雅之くんと引き分けたところでした。井上くんは高校を卒業したばかりです。高校7冠で凄い選手だと聞いていましたが……」
19歳の井上は、その時点で既に田口が予想した以上の怪物だった。
「実際に向かい合ってみて殺気を感じました。手が休まらない。どんどん出てくる。ゴングダッシュじゃないんですが、カーンとゴングが鳴って、直ぐに圧を掛けてきて。どのパンチも異様に強かったです。
確か1ラウンドに1度倒され、2ラウンドではスタンディングダウンと、計2度ダウンを奪われました。どのパンチが効いたのかは覚えていませんが、4ラウンドのスパーをやる予定が3回で終わったんです」
「彼は、本気で自分を殺しに来ている」
この時、田口の所属していたワタナベジムでは、多くの選手が自身の手を休めて彼らのスパーを見詰めていた。