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加藤未唯“失格判定”を提訴も「最終決定で異議申し立ては不可」…立ちはだかる四大大会の“ルールの壁”「故意か否かは関係なし」
posted2023/06/09 17:00
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Getty Images
過失と失態、不運が重なって、加藤未唯に悲劇が起きた。国内外で様々な考察がなされているが、改めて顛末を整理してみる。
何が起きていたのか
全仏オープン女子ダブルス、加藤とアルディラ・スーチャディ(インドネシア)ペアの3回戦でのこと。加藤が自コートに転がっていたボールを相手のコートへラケットで返したところ、ボールガールを直撃、危険行為とされ、加藤ペアは失格となった。加藤によると、今大会で得られるはずだった賞金とランキングポイントは没収、ほかに罰金も科されるという。
もちろん故意に当てたのではなく、ボールガールに渡そうとしたボールが運悪く直撃したもの。当のボールガールはボールを渡すために相手ペアの2人のことを注視しており、斜め前から飛んでくる加藤のボールに気づかなかった。
加藤はネット付近にいた別のボールパーソンを避けてボールを打った。その方向にボールガールがいたのは不運だった。ただ、相手がワンバウンドで受けられるようにボールを渡すのがコートでのマナー。ノーバウンドで飛んでいったのは、注意が欠けていたか、手もとがくるったか(加藤はバックハンドは両手打ちだが、このときは慣れないシングルハンドで打った)。
故意であったか否かはルールの適用に影響しない
相手ペアのアピールでボールガールにボールが当たったことを知った主審は、当人に確認したうえで加藤に「警告」を与えた。『グランドスラム公式ルールブック』では「結果を考慮せずにボールを打つこと」が「ボールの乱用」にあたり、ルール(行動規範)に抵触するとしており、これを適用したと思われる。主審の判定は妥当だ。
ここで注目すべきは、故意であったか否かはルールの適用に影響しない、という点だ。この行動規範は、選手はプレー中を除き、ボールを打つ際は最大限、危険回避に努めなければならないことを示している。
対戦相手の抗議とボールガールの涙
対戦相手のペア、マリエ・ブズコバ(チェコ)とサラ・ソリベストルモ(スペイン)は、ボールガールが負傷している、血が出ていると主審に訴えた。ボールガールは涙を流し、激しく動揺していた。その姿を見た主審は、大会レフェリーとグランドスラム・スーパーバイザーを呼ぶ。レフェリーは、トーナメントにおけるすべての裁定について最終的な権限を持つ役職。スーパーバイザーはその顧問的なポジションだ。主審は事態を重大と見て、高度な判断を求めたのだ。