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「異端で結構」慶應義塾高の森林貴彦監督が語る”エンジョイ・ベースボール”の真相「坊主頭は…」「(清原勝児は)純粋に野球が好き」
posted2023/05/24 17:02
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Kiichi Matsumoto
「今年のセンバツで、長髪の選手がいた高校がどのくらいあったと思いますか?」
慶應義塾高校野球部の監督、森林貴彦がおもむろに問いかける。
近年の高校野球界は、旭川大高校や花巻東など甲子園に出場するようなチームにも「脱・坊主」が増えてきた。そんなイメージもあり「10校くらいですかね?」と答えると、森林はニヤリと笑い、正解を告げる。
「うちを含めて4校です」
センバツ出場36校のうち、長髪の選手がいた高校は慶應義塾と東北、そして21世紀枠で選出された氷見と城東だけだった。それぞれ野球部としての方針や選手個人の意思があるとはいえ、「まだこんなに坊主が多いのか」という現実がそこにはある。
まだ前時代的な慣習は残っている。だからといって、森林に嘆きはない。戦後あたりから頭髪を自由としている慶應義塾のマインドを受け継ぐ指導者としては、長髪のチームがゼロではないことに変革の兆しを見る。
「『髪型で野球をするわけではないし、そもそも強制されているわけではないんだから』という慶應義塾としての流れがあるように、本来そうあるべきなんです。坊主頭は高校野球のイメージとしてあるとは思っていますけど、それも徐々に変わってきているので。そこをより加速させるような役割となれたらいいなとは思っています」
慶應義塾は当たり前の高校野球と対極にいるチーム
森林は「役割」と言った。それは「脱・坊主」の普及活動を示しているのではない。頭髪など暗黙の規則が多い高校野球を改革する。その担い手になることだ。
厳しい上下関係や規則。指導者に忠実な選手の受け身型の性質。慶應義塾はそんな当たり前の高校野球とは対極にいるチームである。
野球部がモットーとして掲げる「エンジョイ・ベースボール」がそのひとつでもあるのだが、額面だけでは図れない奥深さがある。
「『にこにこしながら楽しくやってるんでしょ』と思われがちですが、そこは誤解というか。私の解釈としては、『野球を楽しむためにはレベルを上げていこうよ』という呼びかけのような言葉だと思っています。やはり、スポーツは勝利を目指すことが第一でなければ、レクリエーションのようなおかしなものになってしまいます。日本一を目指す。そこにふさわしいチームになるという大目標は変わりません。そこを達成した先に高校野球の常識を変えていきたいとか、いろんな目標を果たすために日々を励むということです」
目指すべきものは他の高校と同じ。ただ、慶應義塾として重要視するのは、勝利に至るまでの過程。チームの歩みだ。