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プロ野球でも活躍する「ライン引」の“白い粉”ってどんな成分なの? 実はスポーツ以外でも使われている“意外な場所”とは
posted2023/03/26 06:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
KYODO
グッと息を止めて、石灰がもうもうと舞う体育倉庫からライン引きを引っ張り出す――。あなたもきっと、小学校や中学校でそんな経験をしているのではないだろうか。
東大阪市で1926(大正15)年に創業した淡野製作所は、知る人ぞ知るライン引きの老舗。ロングセラーとなっている「グランド用ライン引(2輪シリーズ)」は、町工場ひしめく地域を代表するブランド品、“東大阪ブランド”にも認定された名品で、長年の試行錯誤から生まれた創意工夫が施されている。
3代目社長の淡野彰夫さんが言う。
「掃除をしやすいように、粉を排出する底部を開閉式にしたのは先代の発案。またタイヤとともに内部のヘラが風車のように回転し、粉をかき出す仕組みはウチ独自のものです」
さて、そんな2輪シリーズの中でも長くプロ野球の舞台で活躍しているのが「D-17 野球用ライン引」、税込2万900円。
ここで気になるのが野球用という部分。ラインなんてどの競技も同じでは? とたずねると、淡野さんは笑いながら言った。
「いや、運動会や陸上は5cm、サッカーは10から12cm、野球は7.6cmと、用途によって幅が異なるんです。野球の7.6cmというのは3インチ相当。アメリカの単位が用いられている。ですから弊社では野球用、サッカー用に運動会や陸上の一般用と、用途別にライン引きを出しているわけです」
あの“白い粉”ってなにでできている?
さて、淡野さんによると、環境保護の波はグラウンドのラインにも及んでいるという。
「ラインは昔なら石灰、その後炭酸カルシウムが主流になりましたが、どちらも芝に悪影響を及ぼす。また石灰は目に入ると炎症を起こすといったことから、近年は環境や人体に配慮して卵やホタテの殻を粉砕したパウダーが使われるようになってきました」
卵やホタテは石灰や炭酸カルシウムより比重が大きく、従来の製品では粉が出すぎてしまう。そのため淡野製作所は、排出口を小さくしたライン引きを開発して対応している。
テニスコートにテープのラインが採用されるなど、市場が縮小気味だったライン引き。ところが近年、意外な用途で売れるようになったという。
「まったく想像していなかったのですが、家を建てるときの区割りの線を引くのにいいということで、たくさん出るようになりました」
スポーツに、建築に。淡野製作所のライン引きは二刀流の働きを見せている。