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JRも地方路線は赤字ばかりだが…「経営が苦しいので野球部やめる、と言いたくない」鉛筆1本コストカットする現状でも…なぜ社会人野球を続ける?
text by
鼠入昌史Masashi Soiri
photograph byKYODO
posted2022/12/28 11:20
今年、4年ぶりに都市対抗野球に出場したJR西日本野球部。1回戦で延長タイブレークの末、四国銀行を下した
「それがそういう話は聞かないんです。むしろ、野球部を入れてくれと、そんな要望が圧倒的に多い。というのも、野球部員たちは体育会系の中で鍛えられてきていて、元気のいい挨拶とか礼儀とか、忍耐力、精神力、目標に向かって努力していく姿勢、そうしたものを最初から持っているので、職場で他の社員の良いお手本になるんですよ」
もちろん業務そのものは経験豊富な一般社員の方がうまくこなすことができる。ただ、短い時間の中でひたむきに仕事に取り組む野球部員の姿が、他の社員に与える好影響も少なくないのだ。
「経営が苦しいので野球部やめます」と簡単に言いたくない
さらに、野球部員が職場にひとりいることで、職場内での会話のきっかけになることもある。試合での活躍があればその話で盛り上がり、くすぶっていれば背中を押す。選手を応援するオリジナルのTシャツを作る職場もあるという。
「いつも一緒に仕事をしている仲間が野球部で頑張っているんですから、そりゃあ応援したくなりますよ。だから、職場の一体感も高まっていく。職場内の雰囲気も良くなる。野球部の存在意義というのは、実は思っている以上に大きなものなのかもしれません」
JR西日本野球部では、野球を引退しても基本的に“社業専念”という形で社に残る。キャリア面での安定感もさることながら、野球で培った経験も活かしながら、多くの部下をマネジメントしている“元野球部”の社員も多いのだ。
「コロナ禍で、ここ数年は経営が極めて厳しい状況が続いています。それこそ紙1枚、鉛筆1本のコストをカットするような状況です。そうした中で部員たちも野球を続けていけるのかという不安があったと思います。ただ、ここまで話してきたような存在意義を考えると、そう簡単に『経営が苦しくなってきたのでやめます』と言いたくない。部員たちはプレッシャーもあると思いますが、会社が厳しいいまこそ、野球部の存在意義が問われているのではないでしょうか」
プロ野球を中心に野球を見ていると、社会人野球は“プロに人材を送り出す場所”というイメージを抱きがちだ。しかし、必ずしもそれは当たらない。宮本副部長も、「プロに送り出すためだけにやっているわけではない」と言い切る。会社に一体感を生み出し、それが安全安定の鉄道輸送にもつながってゆく。たかが野球、されど野球とは、こういうことなのかもしれない。
<続く>
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