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モロッコと日本の違いとは? 両国の監督経験者トルシエが説くサッカーの真理「個とコレクティブの均衡が必要だ」
posted2022/12/17 17:46
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Sugiyama
フィリップ・トルシエは現在、カタールの首都ドーハに滞在している。元カタール代表監督として、カタール協会からワールドカップに招待されての訪問である。
大会前にトルシエは、モロッコのベスト4進出を予想していた。確たる根拠はなく「勘であり感覚的なものだった」と述べてはいるが、彼にそう感じさせる何かがモロッコにはあったのだろう。
日本が今回もベスト16止まりだったのに対し、モロッコはいきなり準決勝まで進んだ。その違いはいったいどこにあったのか。日本はモロッコから学ぶべき点が果たしてあるのか。トルシエが語った。(全2回の2回目/#1へ)
モロッコが日本以上の躍進を遂げた理由
——日本とモロッコの違いはどこにあるのでしょうか。モロッコは壁を突破しましたが、日本はグループリーグの成功はあったとはいえ今回もベスト16の壁を破れませんでした。
トルシエ 顕著な違いは個のレベルだ。単なるテクニックではない。日本の選手はコレクティブなプレーに対しての規律がモロッコ以上にある。モロッコの選手は守備では規律があるが、攻撃面では個の能力を活用している。日本の選手がワンタッチでボールをコントロールするのに対し、モロッコの選手は5回ボールに触る。個の能力が、スペースを活用し繊細なボールタッチを生む。その面でモロッコは日本よりも優れている。
またモロッコの選手にはアグレッシブな意思を感じる。日本の場合は三笘(薫)や伊東(純也)など少数の例外を除き、選手はまだ過度にコレクティブだ。そして今大会で顕著なのは、スペインのようなコレクティブなチームがうまく行かなかったことだ。いずれも個の力で違いを作り出せる選手を欠いていた。
とはいえバランスも必要で、例えばブラジルは個の力でプレーする。コレクティブな厳格さは彼らにはない。個の力が屹立しすぎてコレクティブな側面が十分ではないのがブラジルだ。日本は逆で、コレクティブな面が強すぎて個の強さが十分ではない。モロッコはその点でバランスが取れている。個の力もコレクティブな力もあり、ふたつが理想的な均衡を保っている。アルゼンチンも同じで、両者のバランスがうまく取れている。フランスもそう。決勝に進んだ両国は、その点では申し分なかった。
個の力が突出しすぎても、コレクティブな力が目立ち過ぎても勝ちあがることはできなかった。フランスの場合、エムバペがいなければ個の力は半減し、コレクティブな面だけが頼りになる。それでは決勝に進めなかっただろう。(キリアン・)エムバペが日本の選手ならば日本が準々決勝に勝ち上がっただろう。(リオネル・)メッシがモロッコにいたら、モロッコが決勝に進んでいただろう。
すべては個の力とコレクティブな力のバランスで決まる。モロッコとの違いは、個の力の面でモロッコが日本よりも強いことだ。日本にも伊東はいるが……。