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ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
モロッコと日本の違いとは? 両国の監督経験者トルシエが説くサッカーの真理「個とコレクティブの均衡が必要だ」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/12/17 17:46
モロッコと日本をそれぞれ評価しながら、トップ10はまだ遠いと論じたトルシエ
日本には日本サッカーのスタイルがあり、ブラジルにはブラジルサッカーのスタイルがある。フランスにもドイツにもある。今日成功を収めているのは、個の力で違いを作り出せる選手を持つチームだ。日本やクロアチア、スペインのようなコレクティブなチームは違う。ベルギーが敗退したのは(エデン・)アザールや(ケビン・)デブライネが本調子ではなかったからで、チームは問題を抱えていた。今はチームを混乱させる要因が本当に数多く存在する。その中で他と違うのはアルゼンチンとフランスで、コレクティブな面で優れていると同時に、状況を打開できる鍵を持つふたりの選手——メッシとエムバペがいる。彼らふたりが個の力で試合の様相を変えているのが象徴的だ。
——モロッコ代表は26人中14人がモロッコ国外の生まれで、スペインやフランス、ベルギー、オランダなど多岐にわたっています。監督のワリド・レグラギもフランス生まれのフランス育ち、選手としてもフランスで育成されました。この多様性はモロッコの強みであり、ヨーロッパを網羅するスカウト網があって可能なことですが、日本は真似をすることはできません。
トルシエ 日本は自分たちで選手を育成しなければならないし、W杯やアジアカップを通じて世界に名が知られるようになるのは、少なくとも20歳を過ぎてからだ。そのときにはじめてヨーロッパへの道が開ける。日本の教育では、ヨーロッパをモデルにした選手育成はできない。日本の選手はフィジカルと規律面でのクオリティが高く、またテクニックのレベルの高さがベースになっている。だがそのテクニックは、コレクティブに貢献するためのテクニックだ。ボールをうまくコントロールして正確なパスを出し、正しいポジショニングを取る。それが日本で重要な要素だ。
しかし残念ながら個の基準を満たしながらコレクティブに貢献できる選手——たとえばボールをコントロールしながらスペースを活用できる三笘のような選手は——もちろん三笘だけでなくヨーロッパでプレーする日本の選手にはそれが可能だが、彼らがそれをできるようになるのは20歳を過ぎてからだ。しかも人数は限られる。そこを変えていくにはモロッコやアフリカの例に倣うしかない。つまり日本国外で生まれた子供がその国のクラブで育成される。そんな例もないわけではないが数は多くない。
壁となりうる希薄な多様性
——久保がそうですが、彼は稀なケースです。
トルシエ 小さなディテールだが、日本がベスト16の壁に苦しんでいる理由のひとつかもしれない。そこがモロッコとの違いで、モロッコは世界のトップ15に入っていくだろう。ただ、W杯の成績は、モロッコが世界のトップ4の実力を持つことを意味しない。逆にドイツやスペイン、ポルトガル、イタリア、ブラジルなどはモロッコ以前に敗退したが、それでも世界のトップ10として認められているし、これからもトップ10に残り続ける。問題を抱えるベルギーにしても同様だ。しかし日本やモロッコが素晴らしいW杯を実現しても、トップ10に入ったわけではない。
そうではないのはディテールが欠如しているからだ。W杯の後、日本は新しい世代が4年間アジアのチームと対戦し続ける。アフリカも同じで、4年間をトーゴやベナン、モーリタニアとの対戦に費やす。彼らが世界と真剣勝負ができるのはW杯だけだ。W杯で異なるレベルの異なるサッカーと対峙する。新しい世代が招集されれば、以前と同じミスを犯して敗退してしまう。