サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
ドイツ戦前日、森保監督と吉田麻也は“ある言葉”を共有していた…練習から歓喜の勝利まで、現地記者が見た「テレビ中継には映らなかった名場面」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/11/25 17:02
ドイツ戦勝利後、がっちりと握手を交わした森保一監督と吉田麻也
ムードメーカーを買って出た長友の意図
そんな思いも持ちながら、会見場からメトロを乗り継いで約50分。日本代表の練習場に着いた。日本代表は今大会中、カタールの強豪クラブであるアルサッドの施設を使用している。ピッチは2面。ガラス張りの室内練習場からはピッチの様子を見ることが出来るため、左ふくらはぎの違和感で別メニューが続いていた守田英正も、「戦術練習は見ていた」という。リカバリーのための設備が充実した場所での練習は、中3日でグループステージ3試合を行なう今回のW杯に欠かせない。
ドイツ戦の前日練習では、長友佑都の髪がそれまでの「金」から「赤」にチェンジしていた。ドーハでの日本代表合宿が始まってから、長友があえてムードメーカー役を買って出ていることは見ていて明らかだった。森保ジャパンでは冒頭15分間の公開練習の最後に全体が3組または2組に分かれてボール回しをすることが多い。通称「鳥かご」と呼ばれるこのメニューは、選手が適宜別れてグループを組むのだが、メンバーが固定しがちになっているのを見た長友は「チャンピオンズリーグ!」と声を掛けて欧州CL出場チームの選手を集めようとしたり、時には「冨安! 遠慮するな!」と選手を指名したり、顔ぶれが固まるのを避けようとしていた。
ミックスゾーンでの感情には“選手差”があったが…
こうして迎えたドイツとのグループステージ初戦。日本は一方的に押し込まれて良いところなしに前半を終えたものの、後半は反攻に転じ、途中出場の堂安律と浅野拓磨の得点で逆転勝利を収めた。
試合後のミックスゾーンでは、鎌田大地が「前半のままでは恥ずかしい、最悪の試合だった」と語ったように、先発組はドイツをリスペクトしすぎた45分間を総じて悔いていた。一方、点を決めた堂安や浅野は当然ながら胸を張っていた。
ただ、この様子は、先発組と途中出場組の分断を意味するものではなかった。むしろ、それぞれがそれぞれの役割を尊重し、チームとして勝利を収めたことを誇らしく思っていたのだ。
前半、ベンチで試合を見守っていた浅野、南野、堂安は「0-1なら行けると3人で話していた」と言い、3人とも得点に絡んで勝利に大きく貢献した。その中で堂安は、途中出場の選手がゴールを決めたことについて聞かれ、「間違いなくチームを鼓舞する勝利になった」と言いつつ、「試合前からスタメンで出る選手が45分間出し切って、俺らが試合を決めるということをチーム全体で言っていて、その通りになった」と言った。前日会見で吉田が言い、森保監督がうなずいていた「団結力」を裏付けるコメントだった。