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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
東大卒投手が戦力外後ナベツネに直撃「“何だこの本は!”とムッとしつつ…」ホークス編成・フロントで経験した“球団経営ウラ話”
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2022/11/17 11:02
東大卒の元プロ野球投手・小林至さんに今までの野球人生と現在を聞いた
この年、独立リーグ創設の動きもあったが、渡邉オーナーはその機運も承知していた。そして「今後のプロ野球は徹底した自由競争の原理に従うべき」と主張した。
とはいえ小林氏は渡邉オーナーの主張に全面的に首肯したわけではなく、鋭い質問も投げかけてもいる。この書籍については、こんなエピソードもある。
「完成した本をお送りしたところ、ナベツネさんは『合併、売却、新規参入。たかが…されどプロ野球!』というタイトルを見て、“何だこの本は!”とムッとしつつも、パラパラとめくってみて、意外と面白いな、となったようです。出版社に秘書室から連絡があって、200冊買い入れますと、それを各所に配ったんですね。
その後、森喜朗元総理や日本テレビの氏家齊一郎会長など、政財界の重鎮から“あなたのことは、渡邉さんから聞いていますよ”などと声を掛けられました。影響力は凄いなと思いました。そして、ソフトバンクから連絡がありました」
孫オーナーから“徹頭徹尾MLBの真似をしろ”と
当時ソフトバンクはダイエーからホークスを買収する手続きを進めていた。そして「球団の譲渡契約が成立したのは2005年1月30日でしたが、私はその日に取締役として契約をした。入団第1号ですね」と、ソフトバンク球団の取締役になった小林氏はメディア戦略、マーケティング戦略を主導することになったのだ。
「最初の5年はビジネス部門で営業企画、それもIT企画系を担当しました。それから連盟担当として球団の外交官のような仕事もしました。
ソフトバンクグループの孫正義代表からは、MLBのように12球団共同のマーケティング会社を作るよう指示がありました。MLBのビジネスは日本より圧倒的に先に進んでいるのだから、日本流とか四の五の言わずに、徹頭徹尾MLBの真似をしろ、と。
取り組んでみて改めて分かったのが、親会社がメディア企業の球団であるセ・リーグは利害の調整がことのほか難しかったんです。それで“まずはパ・リーグからやろう”と6球団で議論を始めましたが、そこでも利害関係の調整は難儀しました。やっと合意できたのがシステムの統合で、これが、共同事業会社PLM(パシフィックリーグマーケティング)のビギニングです。PLMはその後、『パ・リーグTV』など、新機軸を次々に打ち出し、いまやパ・リーグ球団のネット戦略の中心的存在となっていますね」
現在パ・リーグ6球団の公式サイトは、同じフォーマットで作られている。どこにチーム情報やチケット情報があるか、わかりやすい。それに比べるとセの公式サイトは作りがバラバラだ。PLMの存在意義はこういうところにも見て取れる。
MLB機構の本部に直接乗り込んだことも
IT部門での経験を経て、小林氏は2010年に経営企画・編成育成・広報担当、それを兼ねて執行役員編成育成部部長となる。いわゆるGMになったのだ。