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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
東大卒投手が戦力外後ナベツネに直撃「“何だこの本は!”とムッとしつつ…」ホークス編成・フロントで経験した“球団経営ウラ話”
posted2022/11/17 11:02
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kou Hiroo
1993年限りで千葉ロッテマリーンズを退団した小林至氏は、コロンビア大学経営大学院を修了してMBAを取得。アメリカ企業での勤務を経て、江戸川大学社会学部経営社会学科助教授になる。並行して文筆、評論活動を行う。
エポックとなったのは2004年11月、球界再編でプロ野球界が大揺れに揺れている中、発刊された「合併、売却、新規参入。たかが…されどプロ野球!」(宝島社)である。
本棚にあったこの本を読み返してみて、球界再編を契機に始まったNPBのビジネスモデルの変革を予見した鋭い本であることに改めて気が付いた。
巨人・渡邊恒雄オーナーとの対談が実現したワケ
小林氏はこの本でエクスパンション(球団拡張)や、機構主導のマーケティングによって経済規模を飛躍的に拡大させたMLBと、NPBが昭和そのままのビジネスモデルであることを指摘。ほぼ成長してこなかった状況を鮮やかに対比している。年俸で言えば、1981年の選手の平均年俸はNPBが932万円、MLBが2042万円だったが、その差が2003年には6055万円と2億8050万円に広がっている(今はさらに大きくなっている)。
球界再編は収まっても、ビジネス改革に踏み切らなければ――その差はさらに広がると論じている。
とりわけ注目されたのは、巻末の読売ジャイアンツ渡邉恒雄オーナーとの対談だった。
「球界再編で、世間から巨悪のように批判されていました。ただ、私は経営視点に立てば、渡邉さんは正論を言っていると感じて、ぜひお話を伺いたいと思っていたのです。それで読売新聞社に取材を申請したんですが、“渡邉さんへの取材は一切受け付けていません”と断られました。でもその時、私は自分の思いが届けばインタビューに応じてくれるんじゃないか、と思った。そこで、取材の趣旨を徹夜で書き連ね、配達証明郵便で送った。“ナベツネさんは手紙には目を通す”という都市伝説もありましたから。
そうしたら社長室から“インタビューをお受けします”という電話があった。球界再編の渦中で、渡邉さんにインタビューできたのは私だけだったと思います」
ナベツネさんに完成した本をお送りすると…
当時、渡邉恒雄オーナーは「たかが選手が」という発言によって、日本中を敵に回したような感があった。ただし小林氏との対談では、渡邉氏は明治以降の野球界の歴史に精通し、広範な知識を持っていることが分かる。そして、プロ野球がどのように変わっていくべきか、視野の広い考え方を披瀝した。そのうえでの1リーグ制導入を提示したのだった。
注目すべきは、日本球界もマイナーリーグを充実させて地方から野球振興をすべきだと主張していることである。