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大阪桐蔭・西谷監督「俺だって不安になることはあるよ」…苦悩する「2018年最強世代」キャッチャーに名将が言った“意外な言葉”とは
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/10/12 11:02
2018年、史上初2度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭。「最強世代」のキャッチャー・小泉航平を救った西谷浩一監督の言葉とは
「寮生活では同学年で部屋のメンバーが定期的に変わるんですけど、ずっと一緒にいると人間性って嫌でも見えてくるじゃないですか。そこをどううまくプラスに変えるか。ピッチャー3人ならそれぞれの接し方をいろいろ考えながら、試しながらやっていました」
3年生で迎えた18年のセンバツで、大阪桐蔭は大会連覇を果たした。注目を浴びていたのはチームの象徴である根尾や藤原だったが、小泉もまた優勝の功労者だった。大会では4人のピッチャーが投げ防御率1.31。キャッチャーが手綱を引き締めた証でもあった。
苦悩の小泉を救った“西谷監督の言葉”
チーム、選手とは生き物である。
正しい答えだとしても、それが結果に直結するとは限らない。大阪桐蔭にとってそれは優勝した近畿大会後であり、好調を維持していたチームが沈む。練習試合では連敗も珍しくなくなっていたという。
小泉の手綱さばきに迷いが生じた時期もそこにあたる。頭脳の働きが鈍くなり、リードも懐疑的になる。八方ふさがりとなり、夏の大阪大会を間近に控えた頃には、野球ノートで西谷にこのように想いを解放している。
<何もかもうまくいきません。考えて、考えて、考えすぎても自分のなかで答えが出せません。最近はモヤモヤした気持ちで練習に入ってしまっています>
小泉にとって大阪桐蔭の監督とは、完全無欠の存在だった。百戦錬磨の強者で、常に神経を研ぎ澄まし、隙など微塵も見せないのだと信じ込んでいた。
だが、小泉の苦悩に返答したのは、西谷浩一という、自分と同じいち人間だった。
<俺だって不安になることはあるよ。でも、自分は監督だから、コーチや選手たちに心配させないように、おどおどせずどっしりと構えようと意識している。「はったりでもいい」くらいに考えることもあるよ。小泉もそれでいいんじゃないかな>
小泉はあのやり取りで芽生えた感情は、今も鮮明だと目を真っ直ぐこちらに向けた。
「本当に西谷先生の言葉に助けられましたね。悩んでいた時期って、やっぱり一歩引いていた自分がいたんですけど、『偽りの自分を装ってもいい。はったりでいいじゃないか』って割り切れたというか、目が覚めました」
大阪大会を勝ち抜き、甲子園出場を決めた時点で、小泉は「自分、結構マイナス思考なんですけど、自信満々でいけましたから」と力を漲らせていた。