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「あの場面であのショットを打つことが理解できない」“皇帝”フェデラーは11年前ジョコビッチとの一戦で何に憤っていたのか?
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byGetty Images
posted2022/09/22 17:01
9月23日から行われるレーバーカップでの引退を表明したフェデラー。“皇帝”と呼ばれ絶大な強さを誇ったフェデラーが失望をあらわにした試合があった…
「あのショット」を認める訳にはいかなかった
ジョコビッチが、マッチポイントで放った一か八かの、ギャンブル的なリターンエース――。
それは、フェデラーの世界には存在しない異物であり、摂理の外から飛び込んできた未知の存在だった。だからこそ彼は苛立ち、狼狽し、そして憤ったのだ。
ジョコビッチの「あのショット」を、フェデラーは認める訳にはいかなかった。必ず否定し、排除しなくてはならなかった。それこそが、自らがこれまで構築してきた世界への、正しさの証明になるからだ。
だがそのような意識の興奮状態は、“過剰修正”を助長する。「あのショット」の次のポイントで、フェデラーのフォアハンドがネットを叩いた。続くポイントでは、同じコースを大きくアウト。最後はダブルフォルトで、彼はこのゲームを失った。
以降も、狂った歯車は噛み合わない。予測モデルも正常に作動しないため、打球への入りも少しずつ遅れていく。天変地異が起きた世界で、正しさの指標を失ったまま、彼は敗北へと落ちていった。
試合開始から3時間51分――。
フェデラーのリターンがベースラインを越え、試合に終止符が打たれた。
「あのショット」が飛び出してから、わずか18分後のことであった。
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