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伊沢拓司が勝てなかった「史上最高のクイズプレーヤー」はなぜ突然、表舞台から消えた?…「クイズの帝王」を破った“本当の天才”の青春秘話

posted2025/05/14 11:00

 
伊沢拓司が勝てなかった「史上最高のクイズプレーヤー」はなぜ突然、表舞台から消えた?…「クイズの帝王」を破った“本当の天才”の青春秘話<Number Web> photograph by L)本人提供、R)Keiji Ishikawa

開成クイズ研究部の先輩・後輩として、切磋琢磨した伊沢拓司と青木寛泰

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別府響

別府響Hibiki Beppu

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L)本人提供、R)Keiji Ishikawa

現在では多くの番組や書籍が制作され、「QuizKnock」の登場を経て多くのファンを魅了するコンテンツとなったクイズ業界。その中で、「史上最高のクイズプレーヤー」と称された男が、消えた。日本クイズ史に残る“天才の消失”を、本人、そして伊沢拓司の証言から解き明かす――。《NumberWebノンフィクション/全4回の初回》

◆◆◆

 青木寛泰(ひろやす)の目の前に広がっていたのは、色のない荒野だった。

 時は2015年3月。青木がいたのは、埼玉県のコンサートホールだ。その日、会場では学生クイズ大会である「abc」が開かれていた。

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 abcは中学生から大学4年までの学生を対象とした日本最大の競技クイズの大会である。

 1Rのペーパーテストから始まり、2R、3R、準決勝、決勝と様々なタイプのクイズで競い合うことになる。長丁場ということもあり、クイズの知力や技術はもちろん、シンプルな体力や集中力の維持も求められる。実質的な学生界の実力者No.1を決める大会でもあった。

 その決勝で、東京大学の1年生だった青木はあっさりと連覇を達成した。それは、中3で最年少優勝を果たして以来、大会史上最多となる3度目の栄冠だった。

「史上最強のクイズプレイヤーは誰?」

 abcという大会で有利なのは、当然ながら年長者である大学3、4年生たちである。それまで積み上げてきた知識の蓄積があり、しかも大会への対策に十分な時間を割けるマネジメントができる立場にあるからだ。中高生まで出場資格自体はあるとはいえ、1Rのペーパーテストを突破できれば相当な実力者で、実際、それまでの大会での優勝者はほぼ全員が大学の上級生だった。

 そんな状況下で、中3、高3と2度も優勝し、大学1年にして3度目の優勝を果たした青木の実力は、群を抜いていた。3度目の戴冠で、過去最多の優勝数にも並んだ。

 その実力の傑出度を鑑みれば、当然、これから前人未到の4勝、5勝と続いていくに違いない――。会場のプレイヤーは皆、そう思っていた。

 ところが、優勝後のインタビューでそんな“クイズの天才”の口を衝いたのは、「もう、やり切りました。引退します」というまさかの言葉だった。

――「なんで?」「え?」「優勝したよね?」

 会場は騒然となった。それはそうだろう。いままさに大会を制したばかりの「現役最強」プレイヤーが、その全盛期に突然の引退を発表したのだから。

「史上最強のクイズプレイヤーは誰?」

 その問いに、おそらく最も多く名が挙がる男は、あまりに突然に表舞台から姿を消した。

【次ページ】 クイズ体験会で青木を導いた“ある先輩部員”

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