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「毎日6~7時間クイズ漬け」でも現役で東大合格→医学部に…全国大会で初の中学生優勝“史上最強の天才少年”が「クイズの深淵」に落ちたワケ
posted2025/05/14 11:02

学生クイズの頂点を決める大会「abc」を史上初めて中学生で制すなど、輝かしい成績を残してきたクイズプレーヤー・青木寛泰
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別府響Hibiki Beppu
photograph by
提供:青木寛泰
◆◆◆
会場が、揺れていた。
2011年の8月、場所は大田区の区民センター。ここで、学生クイズの祭典「abc」が開催されていた。
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abcは中学生から大学4年までの学生を対象とした日本最大の競技クイズの大会である。
1Rのペーパーテストから始まり、2R、3R、準決勝、決勝と様々なタイプのクイズで競い合うことになる。長丁場ということもあり、クイズの知力や技術はもちろん、シンプルな体力や集中力の維持も求められる。
当時ですでに参加者は400人を超えており、社会人を除けば実質的な実力者No.1を決める大会でもあった。
当然ながら、有利なのは年長者である大学生たちである。
彼らはそれまで積み上げてきた知識の蓄積があり、しかも大会への対策に十分な時間を割くためのマネジメントができる立場にあるからだ。中高生にも出場資格自体はあるとはいえ、1Rのペーパーテストを突破できれば相当な実力者で、実際、それまでの大会での優勝者はほぼ全員が大学生だった。
ところがこの年の「abc」では、決勝の舞台にたった1人――5カ月前まで中学生だった少年が上っていた。
彼の名は、青木寛泰と言った。
「初の中学生優勝」への期待で会場が揺れた
「正直、あの時はとにかく『目の前の一問を答えよう』ということだけを考えていたんです。そしたらあれよ、あれよと決勝まで行っちゃって。そしたらそのタイミングで……会場の拍手と歓声がすさまじくなって。ちょっと怖いくらいでした」
例年、abcは3月末に開催されている。
だが、この年は東日本大震災の影響を受け、約半年後の8月開催にスライドされていた。そのため震災当時、中学3年生だった青木は8月の大会に高校1年生ながら「中学生相当」という扱いで出場していた。結果的にラウンドが進むにつれ、会場中に「初の中学生優勝」への期待が高まっていた。
決勝では一問答える毎に、会場を見回すと比喩ではなく「会場が揺れているように思えた」という。それも無理はない。これまでほぼ大学生しか勝ったことのない、学生No.1を決める大会で、突如、中学生が勝とうとしているのだ。
青木は盛り上がる会場の雰囲気を見ながら、こんなことを考えていたという。
「この流れは僕、このまま勝つんだろうなぁ――」