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「あの場面であのショットを打つことが理解できない」“皇帝”フェデラーは11年前ジョコビッチとの一戦で何に憤っていたのか?
posted2022/09/22 17:01
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph by
Getty Images
9月15日、自身のTwitterでレーバーカップ(9月23日~25日)での引退を発表したロジャー・フェデラー。四大大会(グランドスラム)通算20勝を誇るテニス界の皇帝が11年前にまさかの逆転負けを喫し、失意をあらわにした一戦がある。
2011年、全米オープン準決勝vs.ジョコビッチ――。当時30歳の史上最高のオールラウンドプレイヤーの身に何が起きていたのか。
Sports Graphic Number1008号(2020年7月16日発売)の記事『ロジャー・フェデラー「一撃で崩れた王者の思考回路」』を特別に無料公開します。※肩書きなど全て当時のまま
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「なぜ、僕が今ここにいるのか、うまく説明できない。本来なら別の立場で、記者会見をやるはずだったと感じているから……」
詰めかけた記者たちの興奮と好奇の視線を浴びながら、ロジャー・フェデラーは少しうつむいたまま、重い口を開いた。
2011年、USオープン準決勝直後のインタビュールーム――。
悄然と椅子に腰を沈める彼は、それでも極めて冷静を装い、時に自虐的なジョークを交えて記者たちの笑いまでも誘っていく。その表情と声色が途端に気色ばんだのは、次の質問を向けられた時だ。
《相手のマッチポイントであのようなショットを決める人というのは、運があるのか博打打ちか、それとも自信があるのか……》
僕が言いたいことは、つまり……勘弁してくれよ
「自信? 冗談で言ってるのか? 僕が言いたいことは、つまり……勘弁してくれよ」
独り言のように言葉を吐き出す、彼の顔に浮かんだ感情。それは苛立ち、狼狽、あるいは、怒りである。
「あの場面であのショットを打つことが理解できない。僕は懸命に積み重ねたプレーが報われると信じているから」と言葉を続けた彼は、この時、いったい何に戸惑い、何に憤っていたのだろうか? 自分自身か? メンタルの弱さのようにみなす周囲の視線か? あるいは、このような不条理な事態に身を置くことを強いられる、その起点となった「あのショット」にだろうか?
その解を知るために、時計の針を巻き戻してみよう――。