Number ExBACK NUMBER
「死にそうじゃねぇかよ…」伊沢拓司が敗れた“本当の天才”…なぜクイズ界から消えた? “衝撃の引退宣言”全真相「青木は、強すぎたんです」
posted2025/05/14 11:03

「引退宣言」でクイズ界を揺るがした天才・青木寛泰は今――
text by

別府響Hibiki Beppu
photograph by
L)本人提供、R)Keiji Ishikawa
◆◆◆
その異変は、伊沢拓司もうっすらとは感じていた。
「青木(寛泰)が引退宣言する2015年のabc直前、開成で一緒にクイズをやっているんですよ。青木が主催で、開成のOBたちで集まって。そこに僕も呼ばれて」
ADVERTISEMENT
当時、東大2年生だった伊沢の「対青木 自意識過剰」は極まっていた。
青木のあまりのクイズの強さと、当時その強さから身を隠すようにクイズから離れてバンド活動に勤しんでいた伊沢。その実力差に、第一線で同じ大会に出ることすら避けていた。だからこの時も「しばらく一緒にやっていないけど、俺も呼んでくれるんだな」と思っていたという。
ただ、そこで伊沢がぼんやりと感じたのは、青木の「疲弊」だった。
「もちろん僕は引退のことを相談されてはいません。でも、周囲からは『やっぱり青木はすごいよ』と同じくらい『やりすぎているよ』という声も聞いていた。クイズしている時の眼差しの鋭さとか、思いつめ感がすごかった。ただ、これまでも青木って大会前は多かれ少なかれそういう感じだったんです。でも、あとから思えばやっぱりこの時は少し違っていた」
伊沢の目に映ったのは、プレッシャーに押しつぶされそうになりながら、それを異常な精神の強さで跳ね返している青木の姿だった。
「青木、またやってんなぁ。なんかもう、死にそうじゃねぇかよ――」
その違和感は、実は青木の胸中を的確に見通していた。
伊沢が見破った“青木の違和感”の正体
この時、青木は人生で初めて、「クイズの迷路」に迷い込んでいた。
「中学でクイズをはじめて、最初は伊沢さんという目標がいた。その後、abcに勝って伊沢さんを超えても、まだ大学生の強い先輩たちという壁がいてくれた。ところが、2014年に大学に入学したころには、そういう先輩たちも卒業していて、いなくなっていた。目標が急になくなってしまったんです」
しかも、ちょうどこのタイミングで青木には進路の問題が立ちふさがった。