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優勝経験ゼロの宮城、福島、滋賀…甲子園は“異例のベスト4”だった これは「地方の逆襲」なのか? 仙台育英が見せた、新しい勝ち方
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byJMPA
posted2022/08/25 17:55
「青春は密」須江航監督の優勝スピーチを聞いて、感極まる仙台育英ナイン。東北勢初の夏の甲子園優勝を果たした
いわゆる近畿や関東の強豪私学が王道な育成手法をとっているうちに、仙台育英など地方では異なる分野のトレーナーやアナリストらと組んで、チームも個人も成長をしている。そんな動きが少しずつ芽を出し始めていると言えるのかもしれない。
筆者は野球指導者との交流とマインドのブラッシュアップを目的としてオンラインサロンを運営しているが、そこに来るのは公立校の指導者や、強豪私学でも若いコーチであるケースがほとんどだ。かつては皆が強豪に習うかのように同じような指導を目指していたが、移り変わりつつあることを実感している。
最強2番打者、「送りバント」で混乱…
試合での采配も同様だ。
王道のチームはスタイルも王者の野球を志向する。先発はエースがメイン、チーム1のスラッガーは3、4番を打ち、2番にはつなぎに長けた選手が入る。走者が出ればバントで確実に送り、ディフェンスもオーソドックスに守る。選手の素材が揃い、練習量が見込めるからこそ、そうしたチーム作りができるが、王道でないチームはあの手この手で戦い方を変える必要がある。
仙台育英は投手の育成に特化することで、強力な投手陣を形成。決勝戦の先発投手が中3日で登板するという理想的な起用が実現できたのだ。「斎藤蓉は3年間で1番のピッチング」と須江監督は語ったが、そうなるように采配を振ったと言うわけである。
仙台育英に準決勝で敗れた聖光学院は2番打者に長打が最も期待できる打者を置いていたし、下関国際は走者が出ても、送りバントを絶対的な作戦とはしなかった。積極的に攻める姿勢を見せることで、試合終盤の作戦を相手チームに分からなくさせることを徹底していた。
とはいえ、下関国際や春夏3季連続出場の近江に特段新しいチームづくりを感じなかったことにも触れておきたい。どちらかというと、彼らはチームにいるスーパースターの存在、それに地方校の反骨心で上り詰めたベスト4であったことは否めない。仙台育英と同列では語れないところはある。
それでも、結果として地方の躍進が見られたことは、高校野球界に新しい風を吹かせた。やはり、優勝した仙台育英の戦い方や組織運営には学ぶことも多い。
地方からの改革、「脱・王道」の野球がこれからの高校野球を賑わしてくれることは間違いない。
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