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優勝経験ゼロの宮城、福島、滋賀…甲子園は“異例のベスト4”だった これは「地方の逆襲」なのか? 仙台育英が見せた、新しい勝ち方

posted2022/08/25 17:55

 
優勝経験ゼロの宮城、福島、滋賀…甲子園は“異例のベスト4”だった これは「地方の逆襲」なのか? 仙台育英が見せた、新しい勝ち方<Number Web> photograph by JMPA

「青春は密」須江航監督の優勝スピーチを聞いて、感極まる仙台育英ナイン。東北勢初の夏の甲子園優勝を果たした

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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「4分の3」。

 仙台育英の初優勝で幕を閉じた第104回全国高校野球選手権大会はベスト4が決まった時点で異例の事態だった。4校のうち3校が優勝未経験の県代表で、東北の2校(仙台育英、聖光学院)、プラス近畿地区で唯一優勝がない滋賀(近江)という顔ぶれは新時代到来を予感させた。

 じつは2010年に沖縄代表の興南が優勝して以降、夏の甲子園に限ってはある種の偏りが生じていた。2011年の日大三を皮切りに、大阪桐蔭、前橋育英、東海大相模、作新学院、花咲徳栄、履正社、智弁和歌山と近畿、関東地区の強豪私学がその覇権を握ってきたのだ。

 東北を始めとした“地方勢”は躍進こそするものの、なかなか近畿・関東の牙城を破れないでいた。

「野球エリートがサバイバル」王道の育成方法

 近畿・関東の歴代優勝校に共通していたのは王道の野球だ。

 中学時代のエリートを集め、高校野球の舞台で戦えるように鍛え上げていく。野球のスタイルに違いはあっても、おおよそのチームづくりは似ている。

 能力の高い選手たちに高校入学直後から試合経験を積ませていく。実戦ではうまくいく時もあるが当然、失敗もある。その失敗を糧にモチベーションを高めさせ日々のトレーニングの濃度を高めていく。練習環境、時間の制約が少なく、指導者の数も充実していて練習をきっちりやるので個人の力は順調に伸びていき、経験を積むごとにあらゆる場面でのプレーに順応していくというわけだ。

 ある意味で特別、珍しいことをするわけではない。それぞれの高校の練習スタイルはあれど、ほとんどの選手を同じ育成法でサバイバルさせ、生き残ったものが試合に出る。

 経験豊富な指揮官たちは勝ち方を熟知しているので、サバイバルした選手でどううまく勝利に繋げていくかを互いに競い合う。時に強豪校が序盤に敗退するが、それは育成過程で青写真がうまく描けなかったか、試合のなかで監督が采配ミスをしたケースだ(今大会で言えば、大阪桐蔭の敗退は指揮官の采配ミスが敗因の一つであろう)。

異例の投手起用「決勝まで200球超えゼロ」

 そんななかで冒頭の通り、今大会は地方勢の躍進が目立った。一体、何が異なっていたのだろうか。

 その取り組みが顕著だったのは、やはり優勝した仙台育英だ。

【次ページ】 異例の投手起用「決勝まで200球超えゼロ」

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