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スランプの巨人・岡本和真の身近にいる“いいお手本”? 新4番・中田翔の“結果”にみる変わる勇気「チャンスが岡本を追いかけてくる」 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byNaoya Sanuki

posted2022/08/16 11:03

スランプの巨人・岡本和真の身近にいる“いいお手本”? 新4番・中田翔の“結果”にみる変わる勇気「チャンスが岡本を追いかけてくる」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

後半戦、不振に陥っている巨人の岡本和真(左)と新4番を任された中田翔(右)

「その選手にしかわからない感覚がある」

 巨人OBで元ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜さんである。

「遠くへ飛ばせるというのは才能だし、その選手にしか分からない感覚というのがある」

 こう語っていた松井さんは、だからこそプロ入り直後から長嶋茂雄監督(現巨人軍終身名誉監督)と共に二人三脚で築き上げてきた打撃に対しては、頑固なこだわりを持って、なかなか変えようとはしなかった。

 ただそんな松井さんがプライドをかなぐり捨てて、不振を脱出した場面があった。

 メジャー1年目の2003年のことだ。

 この年はホーム開幕戦でいきなり満塁本塁打を放つ鮮烈デビューを飾り、順風満帆な船出と思われた。しかし開幕から1カ月もしない内に、相手バッテリーの研究が進み徹底した外角攻めに悩まされた。

 外に落ちるツーシームやシンカーを引っ掛けてはゴロアウトを連発する姿に、辛口のビートライターたちからは「ゴロキング」と書き立てられた。当時のヤンキースオーナーのジョージ・スタインブレナー氏には「こんなにパワーのない選手と契約した覚えはない」と厳しい声を投げかけられたりもした。

 結果的には4月の月間本塁打はわずかに2本。そして「ゴロキング」と揶揄された5月は、ついに本塁打は1本にまで落ち込んで先発出場も危ぶまれるピンチに立たされることになる。

松井秀喜にヤンキース・トーリ監督がアドバイス

 そんな松井さんに当時のヤンキースのジョー・トーリ監督が遠征先のシンシナティのホテルでこうアドバイスしたのである。

「打席で半足だけベース寄りに立ってみてはどうだろうか。きっといい結果が出るぞ」

 実は松井さんも外のボールを克服するために、打席の立ち位置を変える方法も頭にはあった。ただ、それをやった時に生まれる副次的な影響が気になってどうしても踏み切れなかった。

「だってたとえ半足でも前に出れば、ボールの見え方がかなり変わってしまう。そうやって追いかけると、今度はインコースがさばけなくなるのではないかという不安があった」

 後にこの時のことを振り返った松井さんの言葉だ。

 だから分かっていても、なかなか勇気を出して前に踏み出せずにいた。そうして逡巡する松井さんの背中を押したのがトーリ監督だったのある。

【次ページ】 岡本の身近にいる”いいお手本”

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